第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-6] ポスター:脳血管疾患等 6

2022年9月17日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-6-2] ポスター:脳血管疾患等 6目印のついた上衣と鏡を用いたFBで着衣動作が即時的に改善した症例

前澤 茜里1掬川 晃一1,2大舘 哲詩1 (1苑田会 花はたリハビリテーション病院リハビリテーション部,2国際医療福祉大学大学院博士課程)

【背景】着衣動作は脳血管障害患者で高頻度に障害される動作の1つである(Nancyら2006).更衣についての事例報告では竹部ら(2008)の報告をはじめ一か月以上を要したものが多く,介入の効果と自然回復との違いが不明瞭である.目的は構成障害と半側空間無視(USN)による着衣障害を呈した患者に対し,上衣の目印を意識した動作訓練と鏡を用いたFBによる介入の効果を検証することとし,一度の介入で着衣の介助量が大幅に軽減したため報告する.
【説明と同意】書面で説明し,同意を得ている.開示すべきCOI関係にある企業等はない.
【症例紹介】右前大脳動脈領域の脳梗塞を認めた40代女性である.65病日目に当院へ転院した.左側BRSⅣ−Ⅴ−Ⅳ,MMSE27点(減点項目:計算),TMT-A64秒,B170秒エラー8回,BIT通常検査135/146点(カットオフ値以下:模写試験,線分二等分試験,描画試験),Catherine Bergego Scale(以下CBS)6/30点,コース立方体組み合わせテストIQ51, FIM運動項目42点(上衣更衣1点),上衣着衣のCOPMは重要度10/遂行度1/満足度1でFunctional Dressing Assesment(以下FDA)は9/16点であった.(減点項目:袖の選択,袖に手を入れる,袖を肘まで上げる,袖を肩にかける)チャック付きのパーカーを自分で着たいとリハビリ外で練習をしていたが,着衣のどの工程で失敗しているかが認識できておらず,着衣に介助を要していた.
【介入】76病日目に実施.左胸部に目印のある前開き上衣を使用した.左袖を目印の真下にある袖口から通すこと,左胸部の目印を持ち,麻痺側上肢をなぞるようにして肩に載せることを指導した.初めは徒手的に誘導し,2回目以降は自身で行った.全身鏡の前で行い,失敗した際は鏡を見せ,失敗した工程に気付くようFBを行った.部分練習は3回連続で可能になるまで反復し,その後全体練習を行った.
【結果】初めは介入前と同様の失敗が見られその認識も乏しかったため,その都度鏡を見せ失敗している工程を説明した.徐々に同じ工程で失敗していることを認識し始めたため,失敗した工程や正しい動作を自身で説明するように促し,20分の介入終了後は声かけなく着衣が可能となった.翌日以降目印のない上衣も着衣が可能であった.FIM(上衣更衣)は5点に向上し,FDAは16/16点,COPMは遂行度6/満足度3になった.
【考察】CBSや机上の評価からUSNと構成障害がみられた.着衣に支障をきたす神経心理学的症状はUSNで70%,構成障害で62%と示され(山本ら2013),これが着衣障害に影響したと思われる.今回上衣の目印を意識した動作指導を行った.健常者の前開き上衣の着衣では,上衣を手に取りそれを広げる工程がある(山本ら2015).目印の真下にある袖口に通すと指導したことで,上衣についた目印を探す工程が生まれ,左右の袖口を探す動作に繋がったと考える.片側の袖通し工程は衣服と自己身体の対応する部位を照合する必要があるが(山本ら2015),衣服の形状を認識する前に,目印を肩にのせるといった単純な動作で理解したため,更衣動作の獲得に至ったと考える.FBは口頭のみでなく鏡を用いて行った.これにより失敗しやすい工程を視覚的認識からも理解でき,その工程を動作時に意識したことで,USNにより不十分であった麻痺側上肢の認識を補填できたと考える.また目印に関わらず上衣の着衣が可能になった.これは動作手順の自動化により目印のない上衣へも汎化したと推察する.COPMのMCIDは2点と報告されている(Law Mら1994).本介入によりCOPMの遂行度は5点向上しており,これはMCIDを満たしているため自然回復とは異なる経過を追えたといえる.
【結語】構成障害とUSNによる着衣障害に対し,上衣の目印を意識した動作訓練と鏡を用いたFBは即時的な更衣動作の学習に繋がる可能性がある.