第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-7] ポスター:脳血管疾患等 7

2022年9月17日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-7-2] ポスター:脳血管疾患等 7重度上肢麻痺患者の更衣動作獲得のために自助具が有効であった症例

福原 みなみ1澤井 康平1 (1医療法人えいしん会 岸和田リハビリテーション病院リハビリテーション部)

【はじめに】
麻痺側上肢の運動麻痺が重篤な場合でも,その他残存機能の活用により早期の更衣自立到達が可能であるとされている.しかし,片麻痺患者の場合,どうしても片手ではできない操作があり,クライエントの趣向を無視して,着脱のしやすさで衣服を選択しなければならない場合もある.今回,重度上肢麻痺を呈した症例に対して,症例が希望する衣服の更衣動作に着目し,作成した自助具を用いて練習を行うことで動作獲得の一助となったため,以下に報告する.なお,研究の報告に際して,本人へ十分な説明を行い,了承を得た.
【症例紹介】
40代後半,男性.診断名は右被殻出血で同日血腫除去術施行.24病日に当院入院.入院時,FuglMeyer Assessment(以下,FMA)上肢4/66点,FMA下肢0/34点と左上下肢重度麻痺,重度感覚障害,左半側空間無視を認めていた.基本動作は全介助であったため,入院1ヶ月半は基本動作,上肢麻痺に対する介入を中心に実施した.基本動作が軽介助-見守りになり,左半側空間無視もBIT45/146点,MMSE 28/30点と改善を認めた.82病日よりActivities of Daily Living(以下,ADL)に焦点を当てた介入へ移行し,中でも本人から希望のあった更衣動作を中心に介入を開始した.
【方法】
82病日では本人が普段着用しているトレーナーで評価した.更衣動作の問題点として上衣の背部調整が不十分,袖選択の誤りが挙げられた.また,本人から退院後に着たい服の希望として前開きのジャージが挙がったため,148病日から練習を開始したが,片手操作でのファスナー開閉のみ困難であった.そこでファスナーを片手で引き上げるための自助具を紐,クリップ,針金を使用し作成した.また,靴下着脱も課題特異型練習では困難であったため,片手で履くためのインソール型の自助具と,それを固定するための台を作成した.自助具は症例に合わせて適宜微調整した.更衣評価は更衣時間と動作を工程ごとに採点化するFunctional Dressing Assessment (以下,FDA)を使用し,更衣練習開始時,退院時に評価した.その他の評価は上肢・下肢FMA,FIMとした.
【結果】
103病日から148病日ではトレーナー着衣時間は7分から2分,FDAは23点から26点と改善した.当初に認めていた袖選択の誤りは,反復することで減少した.また,本人が希望した前開き服は,非麻痺側でのファスナー開閉が実施困難だったが,自助具を使用して練習し,1分50秒で可能,FDAは14点から16点とファスナー開閉項目で向上した.同様に靴下も作成した自助具で練習することで着衣時間が3分から1分に短縮した.本人からは,自助具を使用することで時間がかかる苛立ちが消失し,疲労感が軽減したという内省を認めた.最終的に更衣動作が自立となり,175病日に在宅復帰に至った.その他の評価はFMA上肢4→4/66点,FMA下肢12→13/34点,FIM:80→110/126点であった.
【考察】
今回重度左片麻痺患者に対し,非麻痺側の代償や反復した課題特異型練習により更衣動作自立に至ったと考える.早期から更衣練習を実施したことで本人が希望するファスナー操作が必要となる前開き服への介入や自助具の提案を行えた.さらに既存のファスナーリングやソックスエイドでは困難であったため,症例に適応する自助具を作成することで自立に至った.重度麻痺を呈する症例には,ファスナー開閉や靴下着脱を片手で行うには時間を要すため,自助具など道具の使用や環境調整を行うことも必要だと考える.