第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

心大血管疾患

[PB-2] ポスター:心大血管疾患 2

2022年9月17日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PB-2-1] ポスター:心大血管疾患 2家事再獲得を目指した初発心不全患者への作業療法~心臓リハビリテーションチームにおける作業療法の役割~

佐藤 直美1川野辺 穣1加賀屋 勇気1高橋 徹2山崎 大輔2 (1地方独立行政法人秋田県立病院機構 秋田県立循環器・脳脊髄センター:機能訓練部,2同:循環器内科診療部)

【はじめに】当院では2019年8月より心大血管疾患作業療法Ⅰの算定を開始した.心臓リハビリチーム(以下心リハチーム)の中で,OTはADL・IADLや認知機能評価を行うことが多いが,その関わり方については常に悩みながら介入している.その中で,初発心不全患者に対して家事再獲得を目指し介入する機会を得た.OTが専門性を生かしチームの中でどのような役割を担うことが出来るか,一つの知見を得たので報告する.尚,本報告に際して事例に同意を得た.
【事例紹介】 A氏70代女性. 手術適応のある中~重度の僧帽弁・大動脈弁狭窄症,左室拡張機能障害で経過観察,X年Y月Z日に肺炎,急性心不全で入院した.生活歴は,自営業の傍ら家事全般を行ってきた.夫,息子と同居,家族は協力的だった.
【作業療法評価・方針】 Z+15日PT開始,ADLが拡大したZ+55日目にOT開始.身体機能は四肢体幹MMT4,NYHA分類Ⅲ度.認知機能はMoCA-J25点,学習能力は保たれていたが,指導内容について自己流の解釈があった.ADLは食事整容自立,その他は軽介助だった.家族を支えたい思いが強く,手術はせず家事全般の再獲得を希望した.しかし家事動作は,発症後の心肺機能や作業耐久性を考慮すると,病前同様の方法では過負荷になり心不全再燃の可能性が高かった.そこで事例・家族と相談し,実際の家事場面にてバイタルサインをモニタリングしながら評価し,家事内容の見直しを行うこととした.心リハチーム内でOT評価の結果を頻繁に共有し,再発予防教育を進める際には,本人の認知面や性格にも配慮し,指導時の書面利用や実体験から疾病理解を促すような日々の声掛けを行う等,指導方法を統一することとした.
【経過】 介入2週間で立位耐久性が向上しZ+64日歩行器歩行が自立,入浴と更衣は息切れが残存した.Z+79日に棟内独歩が自立したため,調理・洗濯・掃除動作を心電図モニタリング下で確認した.連続した立位,下方リーチ時に脈拍は上昇し,血圧の低下を認めた.家事に夢中で作業は中断せず,疲労を自覚しなかった.これより,かがみ動作や二重負荷動作でリスクが高いと分析し,A氏にはグラフを用い活動と循環動態の変動を視覚化して伝えた.長時間の立位,かがみ動作,重い物の運搬を避けるような活動になるよう生活での約束事を決め,A氏と共有した.退院までに運動耐容能改善に向け要素的な練習を行い,外泊を経てZ+102日に自宅退院した.
【結果】 身体機能はIADLに支障ないレベルへ到達し,NYHAⅠ度,労作時の息切れも消失した.ADL自立,IADLは家族の助けを得ながら一部再開に至った.一方,弁膜症は未治療で,退院後の生活習慣や事例の性格上過活動に不安が残るため,外来支援担当へ申し送りを行い生活状況に即した指導を継続する予定である.
【考察】 多職種で包括的に関わり,OTでは疾患と日常生活との関わりについて指導しながら,希望した家事動作は実際場面で評価を行った.これにより疾病理解や,休息と活動のバランスをとった動作の必要性について事例の理解が進み,希望する生活の再獲得に至った.
今回の事例を通じ,希望する生活を実現・継続するために,実体験の中で活動の技能だけでなく,その心負荷,作業耐久性の視点から評価することで行動変容につながり,指導に結びつくと感じた.また,認知機能の評価に加え,価値観や性格,生活歴を総合的に解釈し,結果を多職種と共有することで,チームにおける指導方法に一貫性を持たせることができると思われた.これは患者個人への指導を強化できるだけでなく,心リハチーム全体での指導を最適化できる可能性があり,OTは再発予防教育の充実に寄与できると考えられる.