第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

神経難病

[PE-1] ポスター:神経難病 1

2022年9月16日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PE-1-5] ポスター:神経難病 1手指機能障害に対して装具療法を用いた重症ギランバレー症候群の1例

殿内 優斗1中井 俊輔1楠田 耕平2那須 徹也1磯野 理1 (1京都民医連あすかい病院,2関西福祉科学大学保健医療学部 作業療法学専攻)

【はじめに】
ギランバレー症候群(Guillan-Barre syndrome:以下GBS)において,急性期に生じた関節拘縮が回復期以降の動作能力に影響を及ぼすとされている.また,歩行自立にまで回復した回復遅延型GBSにおいても,関節拘縮を含む上肢の二次的合併症の影響でADL全般に介助が必要であったとの報告も散見する.今回,手指屈曲拘縮を呈したGBS症例に対して,静的スプリント用いた安静時の良肢位管理がROM拡大促進し,手指機能の改善に有効であったので報告する.尚,本報告にあたり,書面にてご本人の同意を得た.
【症例紹介】
70歳代男性.病前は妻と二人暮らしで自立した生活をおくっていた.X年GBSを発症.第64病日目に当院一般病棟へ転院となった.発症2か月経過しているがMRC sum score:23/60点,基本動作,ADLともに全介助,夜間のみBIPAPを使用していた.GBS disability score:Score5で予後不良例であった.MMTは上肢2~4,下肢0~1,遠位筋優位に筋力低下を呈していた.手指は手内筋の機能不全に伴い,手外筋優位に緊張を高めやすい状態にあった.浅指屈筋と深指屈筋の伸張性は低下し,2~5指PIP関節に強い伸展制限が生じていた.自動運動下では,MP関節を基点に屈伸運動がわずかに可能であるが,PIPとDIP関節の運動はほとんど認めなかった.母指は掌側外転と対立運動が困難であった.感覚は,四肢末梢優位の軽度~中等度の表在・深部感覚鈍麻を認めた.神経伝導検査及び臨床所見から重度の急性炎症性脱髄性多発ニューロパチーが示唆された.
作業目標の設定はカナダ作業遂行測定(COPM)を用いて実施した.短期の作業目標を「自分の手で缶コーヒーを飲む」とした.遂行度と満足度はともに1であった.
【経過と結果】
第67病日目より作業療法を開始した.手指のROM治療は,伸張痛も強く多くの時間を費やす必要があった.一方で,緊張を高めやすい症例の手指はすぐに元の肢位で固定した状態となり,ROM維持に難渋した.そこで介入2週目よりパンケーキ型スプリントを作成し,リハビリ介入前後を除き,安静時は装着し過ごすよう指導した.手指屈筋の緊張が高まらない様,手関節はやや掌屈~正中位,MP関節はやや屈曲位となるよう調整した.数日間,ストラップでスプリントを固定していたが,局所部の浮腫増悪や固定性の低さが問題となり,弾性包帯での固定に変更した.変更後は浮腫も改善し,かつ持続伸張作用にてROM拡大も得られた.スプリントの形状はROM拡大に合わせてこまめに調整した.介入4週目には屈曲拘縮は軽度残存するものの改善し,その後の維持が可能であった.ROM治療に費やす時間が短縮した分,基本動作や手指の機能練習に割く時間が増加した.新たにスパイダースプリントを導入し,自主的な手指操作練習も可能となった.介入6週目には,PIP関節伸展運動や母指の掌側外転と対立運動が少しだが確認出来るようになり,ウェブスペースは拡大し,自分の手で缶コーヒーを持って飲む事が出来た.COPMにて遂行度6点 満足度5点に上昇した.
【考察】
GBSのリハビリテーションにおいて,手指の関節拘縮は回復後の機能阻害因子となるため,早期予防に重点を置く必要がある.しかし,拘縮予防に対して装具を用いた介入報告は少ない.今回,介入早期から徒手療法に加え装具療法を導入した事が関節拘縮予防と手指機能改善に有効であった.
【結語】
重症GBSでは,手指の機能回復に長期間を要する可能性も高く,回復過程に合わせた装具の選定や調整が作業療法士に求められる.