第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

神経難病

[PE-4] ポスター:神経難病 4

2022年9月17日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PE-4-5] ポスター:神経難病 4姿勢管理と生活の質の関係性~褥瘡予防のアームサポートの重要性~

古賀 三千代1木村 明博1 (1医療法人社団研仁会 北海道脳神経外科記念病院リハビリテーション部)

【序論】脊髄梗塞の発症後に施設入所していた高齢男性が,視神経脊髄炎の診断を受けて当院へ入院・加療となった.入院経過の中で安静臥位や食事摂取程度の動作にも緩徐に増強していった.手指を強く握り込み,指間には発赤が生じ始めた.そこで病棟との協業や座位姿勢調整と手指IP関節伸展を促すアームサポート製作し適応した結果,上肢屈曲姿位を抑制することにつながった経過を考察を加えて報告する.尚,報告にあたり当院の倫理審査を受けている.
【事例紹介】80歳代の男性で X年Y月に脊髄梗塞で当院入院し,加療後も運動麻痺が残存し食事摂取以外の生活動作は全介助となり施設への退院となった.施設療養経過中に,右上肢の運動麻痺症状が出現した.受診の結果,視神経脊髄炎の診断で当院へ再入院となる.
【OT評価】言語コミュニケーションは,簡単な内容の会話は可能だが身体状況など複雑な質問に対しては聴取が困難でありMMSEは8/30点であった.「ご飯が美味しく食べたい」との訴えは聞かれた. 身体機能は右上肢の弛緩性運動麻痺,左上肢は筋緊緊張が亢進していた.普通型車椅子への乗車では骨盤帯が後傾し仙骨座りとなり,左上肢はアームレストを強く握り締め,肘を伸展させ座位姿勢は右側への崩れが顕著だった.唯一,自立していた左上肢での食事摂取も車椅子から手を外せず,操作性も低下していた.車椅子座位も10分程で疲労感を訴えられた為に,前回の入院時に比較しても臥床傾向が高まっていた.
【OT目標】施設への再入所に向けた車椅子座位姿勢と耐久性の向上および食事動作に伴う左上肢操作性の向上を目標とした.
【介入経過】車椅子をリクライニング車椅子へ変更し,支持基底面の安定による両側性を高めた.また全身的な過緊張の誘発予防としてベッド上ポジショニングを病棟看護師とカンファレンスを通して統一した.その結果,座位姿勢も安定し左上肢の操作性も向上した.離床機会も徐々に増え耐久性向上の改善がみられはじめていた頃に弛緩性運動麻痺であった右上肢の痙性亢進と座位姿勢の非対称性が増強した.特に手部の痙縮が強く指間の圧迫が強く発赤がみられ褥瘡を生じるリスクが高まった為,手指IP関節伸展と指間の接触の軽減および手関節アライメントを維持する目的でアームサポートの作成とその修正を重ねた.OT場面でもアームサポートを装着し左上肢の道具動作を中心に行い,食事摂取時間に座位姿勢を調整した.
【介入結果】介入経過で,右上肢の屈曲姿位増強と座位姿勢の非対称性の増強を生じたが,アームサポートの適応で上肢痙縮抑制と座位姿勢の良肢位が再獲得され現在は,車椅子乗車時間が1時間以上可能となった.食事摂取に対する意欲も高くなり,8割以上を自己摂取できるようになった.
【考察】長期経過の患者様である程,本症例のように入院時の認知機能から自己表出が難しいと予測されるのであれば,日々の経過の中でのわずかな変化に着眼し対応する重要性をこの介入で再確認させられた.疼痛や動作性の疲労などの不快刺激は,動作全般において介護を必要とする状態では離床機会を低下させ,遂行できていた唯一の動作でさえ,その活動意欲低下につながる原因としては十分と考えられる.そのため,今回の介入結果は大きな成果であったと思う.そして生活を管理している病棟看護師との連携がベッドサイドや毎食の車椅子座位のポジショニングを統一するという医療サービスの質の提供になくてはならないことをチームで共有できた.本症例らしい生活,「ご飯が美味しく食べたい」という想いを汲み取ることができたことはOTとしての臨床活動にとって良い経験をさせて頂く機会となった.