第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-2] ポスター:発達障害 2

2022年9月16日(金) 13:00 〜 16:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PI-2-4] ポスター:発達障害 2先天性上肢欠損児に対する習慣的な義手装着を目指した介入の一事例

山本 健太1 (1横浜市総合リハビリテーションセンター)

【はじめに】
先天性上肢欠損児に対する義手の適応は,義手に対する受容や身体図式の形成を促す観点からも,乳幼児期からの作製・使用が勧められている.また乳幼児期の義手装着の習慣化には,家庭での過ごしや家族を含めた養育者の関わりが重要とされている.今回,左前腕欠損児の義手装着の習慣化を目標とした事例を担当した.保護者および保育園と協働しながら介入を行い,一定の成果を得られたので報告する.なお報告に際し,保護者の同意を得ている.
【事例紹介】
地域の保育園に通う2歳児女児.障害名は先天性左前腕欠損.両親と姉2人との5人暮らし.作業療法は1歳0ヶ月から開始.運動機能はやや不安定さがあるが独歩が可能.社会交流機能は良好.ADLは介助中心だが協力動作が可能.上肢操作は右手中心に食具や筆記具などの道具を使用することが可能.左上肢は,断端長は5cm,肘関節の可動域制限は見られていない.玩具をおさえる,物を抱える等の断端部を使用する場面が多く見られる.1歳10ヶ月に左装飾用義手(顆上支持ソケット・殻構造)の作製を開始した.
【介入経過】
義手完成後(Z日)に保護者から「義手をつけられない,怒って投げてしまう」との訴えが挙がった.「義手を一定時間,習慣的に装着できること」を目標に,月2回で全6回の介入を実施.介入内容は,a)生活状況の確認(Z+30日,2回),b)段階付けした目標を両親および保育園と共有(Z+30日,2回),c)児の作業遂行評価及び遊びの提案(Z+30〜90日,5回)を実施.a)は三間表を参考に生活状況および義手装着が可能と思われる時間帯・活動を確認した.b)はa)の情報を基にgoal attainment scaling(GAS)で具体的に段階付けした目標を両親と共有した.また両親を通して保育園とも情報共有を依頼した.c)は,毎回児の断端の皮膚状態を確認しながら実施した.児は義手を装着することには抵抗や拒否を示すが,絵本や玩具遊びを介してなら装着を受け入れることができた.また大人と一緒に遊ぶことや椅子に着席した設定で遊ぶことで,より安定して装着を受け入れる様子が見られた.その為,家庭では日中や夕食後の遊び時間で姉と一緒に椅子に座って遊ぶ設定,保育園は登園後朝のあつまりまでの時間内で先生と遊びながら装着を促す等,児の好むと思われる遊びを介して義手装着を促すことを提案した.評価方法は,GASの達成度及びカナダ作業遂行測定(COPM)の実施と保護者に家庭・保育園での様子を聞き取った.
【結果】
GASの目標達成度は,家庭は『-1:装着が困難→+1:40分間装着ができる』,保育園は『-1:5分以内の着用→+2:1時間以上の装着が可能』となった.COPMスコア(遂行度–満足度)は,介入前(Z日)は,家庭:1-2,保育園:3-3に対し,家庭:6-10,保育園10-10に向上した.保護者からは,「義手を見せて嫌がることが無くなった」「遊ぶ時に使うものと思っている」「姉達や保育園のお友達と一緒に遊ぶ中で付けられるようになった」などの発言が聞かれ,遊びを介して義手装着を促し,義手の装着が習慣的に行えている様子が窺えた.
【考察】
義手の習慣的な装着には,子ども自身が生活で使えるという実感が必要であり,特に家庭生活の中での関わりが基本となる為,両親と子どもを含めた関係づくりが重要とされている(柴田,2016).今回,児の生活状況及び具体的な目標,義手を装着し得る課題設定を保護者・保育園と共有し,実践を促した.生活状況や具体的な目標を共有・意識付けすることにより,生活場面で養育者が主体となって関わることを支援できたこと,また義手を児自身が生活で使えるという実感が持てるよう,作業遂行の分析から関わりや遊びを模索し,家庭と保育園に汎化できたことが,義手装着の習慣化を促す一助となったと推察する.