第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-1] ポスター:高齢期 1

2022年9月16日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PJ-1-2] ポスター:高齢期 1重度褥瘡患者の意欲・希望の再獲得に向けた作業療法の実践

離床日記を用いたコミュニケーションを通して

安岡 希和1田辺 星来2山本 文架2片岡 聡子1高崎 由起2 (1土佐リハビリテーションカレッジ 作業療法学科,2医療法人 臼井会 田野病院)

<はじめに>
 褥瘡は,耐え難い疼痛によるQOL低下を認め,感染併発による生命予後の悪化原因となるといわれている.今回,褥瘡悪化と熱発で約1か月の間に杖歩行自立から寝たきりとなった症例を担当した.離床に対して消極的な症例に対し,離床時の写真と一言を添えた日記(以下,離床日記)の提供が離床を促し,コミュニケーションの機会の増加が意欲・希望の再獲得,身体機能面の向上に繋がった症例について報告する.なお,症例は転院後死亡退院しており,本報告の発表に関する情報や写真の使用はキーパーソンである息子より書面にて同意を得ている.
<症例紹介>
 我慢強い70代女性.A病院より褥瘡がある状態で自宅退院するも,1か月経過した頃より徐々に歩行困難となり,ADL全介助状態となった.入院の4日前から熱発が継続し,B病院で仙骨部褥瘡の皮膚切開術後,褥瘡治療継続のため当院に転院.意識障害と胸水貯留を認め酸素療法を施行.褥瘡は,仙骨部褥瘡から左大腿骨頭部分にかけて広範囲にポケットを認めていた.
<作業療法介入>
 ポジショニング時はスライディングシートやグローブ,体圧計を使用し,ポジショニング方法をベッドサイドに掲示するなど医療チーム皆が適切なケアが行えるよう努めた.
 症例は離床に対して不安や恐怖心が強く消極的であった.そこで,まずは離床をする目的として離床日記を作成することを提案し,日記をいつでも眺められるよう本人の承諾の元ベッドサイドに掲示した.そして,離床をすることで自分から人に会いに行けることに喜びを感じ,他患者とも交流を持てるようスタッフへの対応の依頼やリハビリ時間の調整を行った.経過の中で「手を使いたい」という希望が生まれ「自分でかき氷を食べる」ことを目標として掲げることができ,達成に向けて作業療法を実施した.
<結果>
 介入当初はリクライニング車いすに3名で側方移乗を行っていたが,最終的には前方腋窩より軽介助レベルで標準型車いすへの移乗が可能となった.
 離床日記は,日記が増えることで動けるようになる自分の姿を客観的に見ることができ,達成感や満足感に繋がった.また,離床日記を見ようと来室者が増えたことで,コミュニケーションが促進され,孤独の解消に繋がった.そしてベッドから見える受付の花を指さし「起きて,あの花と一緒に写真を撮りたい」と言動にも変化がみられ,最終的には自分で選んだ蜜をかけたかき氷を,車いすに座り太柄スプーンを使用し自分の手で食べることが可能となった.また,今回はコロナ禍での介入であり,久しぶりに来院した家族に症例の頑張りを伝えるツールにもなった.
<考察>
 本症例は少しずつ褥瘡が治癒し,動けるという自信と希望の再獲得が生きていることに張り合いを生み,言動に変化をもたらしたと考える.また,他者とのコミュニケーションを通して嬉しい,美味しい,痛い,苦しいなどの様々な感情を共有できる仲間ができたことで「分かち合う」瞬間が訪れ,一人ではないという孤独からの解放に繋がり,自己効力感の向上にも寄与したと考える.
そして,「離床日記」は離床をする目的となり,離床を進めていくうえで重要な役割を果たした.ベッド上に居ながらにして,ベッドと外の環境を繋ぎ,コミュニケーションの促進を図ることができたことが認知面の維持にも繋がったと考える.