第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-8] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 8

2022年9月17日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PK-8-4] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 8機能的電気刺激が注意反応課題時の脳活動へおよぼす影響

近赤外線分光法を用いた検討

吉弘 奈央12網本 和2尾崎 新平3田邉 淳平4 (1関西医療大学保健医療学部 作業療法学科,2東京都立大学大学院人間健康科学研究科 理学療法科学域,3関西電力病院リハビリテーション部,4倉敷リハビリテーション病院リハビリテーション部)

【はじめに】脳血管疾患後に多く見られる半側空間無視(以下USN)は,在宅生活を困難にする深刻な問題である.USNに対する介入として,機能的電気刺激(以下FES)を用いて麻痺側上肢の非随意的な運動を行うことで,USN症状が改善すると報告されている(Eskes et al.,2003).しかし,FESを実施した際の空間性注意機能に関する脳活動についての報告は少なく,介入プロトコルは確立していない.本研究では空間性注意に対するFESの影響を示すことを目的とし,まずは健常者を対象として,USN の評価にも用いられる注意反応課題(Posner課題)時の脳血流量について,FESの影響を検討した.
【方法】対象は,右利きの健常者22名である.対象者をA)Posner課題と同時にFESを実施する(online effect)群と,B)FES実施直後にPosner課題を実施する(after effect)群の2群に分け,Posner課題時の脳活動動態を測定した.FES装置は伊藤超短波株式会社製のTrio300(SE-231)を使用し,左側の手指伸筋群に刺激電極を貼付した.刺激パルスの周波数は25Hz,パルス幅100μsec,筋収縮が得られる強度で通電時間5秒,休止時間5秒,計6分間に設定した.Posner課題は,パソコン画面上に出現するターゲットに対して,できる限り早くキーを押すものであり,注意を反応時間(㎳)で評価する方法である.課題時間は約6分間とした.脳活動動態の測定には,近赤外光脳機能イメージング装置(LABNIRS, 株式会社島津製作所)を用いた.国際10-20法に基づいて,Czを中心に左右4×3ずつ,24個のプローブを設置した.関心領域は,背外側前頭前野,前頭眼野,運動前野・補足運動野,一次運動野,一次体性感覚野,体性感覚連合野,縁上回,角回とした.測定プロトコルについて,A)online effect群は,①安静1分,FESと同時にPosner課題実施6分,安静1分を1セット,②安静1分,Posner課題とsham刺激を同時に6分,安静1分を1セットとし,それぞれ実施した.B)after effect群は,③安静1分, pre Posner課題6分,FES 6分, post Posner課題6分,安静1分を1セット, ④安静1分, pre Posner課題6分,Sham刺激6分, post Posner課題6分,安静1分を1セットとし,それぞれ実施した.統計解析は①FESと同時,②Sham刺激と同時,③FES実施後,④Sham刺激後,それぞれのPosner課題実施時における計測chごとのOxy-Hb値[mM-mm]に対して,一元配置分散分析およびTukey法を用いて検討した(有意水準p<0.05).本研究は東京都立大学研究倫理委員会の承認を得ている.
【結果】右縁上回では,④Sham刺激後(8.82×10-5)に比べ③FES刺激後のPosner課題実施時(13.64×10-5)において有意に上昇していた(p=0.03).さらに,右運動前野・補足運動野(p=0.04),一次体性感覚野(p=0.02/0.03),一次運動野(p=0.03/0.01)においても,それぞれ④Sham刺激後に比べ③FES刺激後のPosner課題実施時において有意に上昇していた.左運動前野・補足運動野については①FESと同時,②Sham刺激と同時に比べ③FES刺激後のPosner課題実施時において有意に上昇していた(①-③:p=0.02,②-③:p=0.03).
【考察】FES実施後のPosner課題実施時に,右縁上回および左右の運動前野・補足運動野,一次体性感覚野,一次運動野が賦活されることが示唆された.先行研究において,FESの実施後に両側の一次運動野や体性感覚野が賦活することが報告されている(Kinberly et al., 2014)一方で,縁上回についての報告はない.本研究ではFESだけでなくPosner課題を実施していることから,Posner課題の実施が縁上回を賦活させ,その賦活はFESの実施後により増強した可能性が示唆される.