第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

地域

[PN-1] ポスター:地域 1

2022年9月16日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PN-1-3] ポスター:地域 1コロナ禍で入院中の退院支援が制限され,自宅退院後の活動機会拡大に難渋した症例

佐々木 ひな子1森田 和幸2阿部 正之2 (1社会医療法人北斗 十勝リハビリテーションセンター訪問リハビリテーションさくら,2社会医療法人北斗 十勝リハビリテーションセンターリハビリテーション部 作業療法科)

【はじめに】新型コロナウイルス流行に伴い,入院中の退院支援が制限され,生活に不安を抱え退院される方も少なくない.当院では通常,入院中に外泊訓練や退院前訪問指導を実施しているが,感染対策のため実施できないまま自宅退院された症例に対し,今回訪問リハにて介入する機会を得たため報告する.尚,本報告に対し対象者の同意を頂き,個人情報の取り扱いに配慮した.
【症例紹介】A氏,70歳代男性,要介護3.左脳梗塞(右片麻痺)を発症し,急性期病院を経て当回復期病院へ入院された.ADL改善に伴い自宅退院を検討するも,感染対策により外泊訓練が困難で,家屋環境調整と動作確認,退院後のリハ継続目的で訪問リハへの介入依頼があった.
【初回評価(回復期申し送り・129病日)】
回復期リハ担当者より口頭と症例動画での申し送りを実施した.重度右片麻痺(Br.stage上肢・手指2,下肢3),MMSE29/30点.基本動作は自立.FIM95点で車椅子にて移動自立し,日中トイレのみ杖歩行見守りレベルだが,夜間はふらつきが強く車椅子を使用している.自宅退院後,夜間のトイレは杖歩行の予定だが転倒が懸念された.入浴は洗体と浴槽跨ぎに介助が必要で,階段昇降や模擬的な敷居の跨ぎ動作は見守りで可能である.元々,2階建ての一軒家に妻と二人暮らしで,自宅内に敷居が複数あり,階段以外に手すりは無く,寝室は1階に変更している.
【介入経過】退院時家屋評価(177病日) 
退院時に自宅で家屋評価を実施した.事前情報通り,杖歩行はふらつきがみられ見守り~軽介助,入浴も介助が必要であった.敷居に麻痺側下肢を乗せる等,入院中に練習し獲得していた動作でエラーが多々みられた.動作確認の上,トイレや浴室等に手すりを設置することとした.
訪問リハ介入開始~1ヶ月(186病日~)
退院9日後から週1回で訪問リハ介入を開始した.「変な歩き方の旦那が帰ってきた.」と家族の不安が強く,転倒や夜間下肢装具を着けずにトイレに行く等危険な場面もあり,常時見守りが必要で「勝手に動かないで欲しい」と家族より話が聞かれた.家族も交え転倒時の対応や転倒しやすい場所の確認を行い,下肢装具なしの歩行練習などを継続した.シャワー浴は,数回の動作確認と介助指導で獲得に至った.
訪問リハ介入1~2ヶ月目(216病日~)
経過とともに自宅内移動が安定し,見守り回数が徐々に減少し夜間のトイレを含めた移動が自立した.リハではA氏の希望に合わせ屋外歩行練習を開始したほか,浴槽入浴の希望も聞かれ,家族も「できることが増えており,浴槽も入れると思う.」と前向きな意向で,環境調整と動作確認後,約1週間で浴槽移乗は自立レベルで可能となった.
【結果(訪問リハ介入3ヶ月目・246病日)】
ADLは概ね自立レベルとなり,家族は「手がかからなくなった」と話され,買い物へ連れ出す,運動目的で屋内外の歩行を促す等変化がみられた.A氏からも「2階へ行ってベランダの柵を修理したい」と希望が聞かれ,家族との外出や一人での散歩,2階で過ごす時間ができ,活動機会が拡大した.
【考察】本症例は,外出等の活動機会拡大に至ったものの,時間を要す結果となった.感染対策により入院中の外出訓練や介助指導を行えなかったことで,退院当初の転倒や家族の不安が生じた結果,A氏の活動制限に繋がったと考える.入院中に通常通りの退院支援が行えていた場合,退院後の転倒予防や介護者の不安軽減が図れ,より早期に活動機会を拡大できた可能性がある.一方で十分な支援が行えず,家族の不安や活動制限が続くことにより廃用状態に陥った可能性も考えられる.長引くコロナ禍で,感染対策と退院支援の両立については今後の課題と思われる.