第57回日本作業療法学会

講演情報

教育講演

[EL-1] 教育講演1

2023年11月10日(金) 11:00 〜 12:30 第2会場 (会議場A1)

座長:四本 かやの(神戸大学大学院 保健学研究科)

[EL-1-1] 精神科作業療法の行方―仕組みから考えるー

小林 正義 (信州大学医学部 保健学科)

1974年に精神科作業療法(OT)が制度化され49年が経過した.当時の算定基準は「患者1人当たり1日2時間を標準,患者数は25人を1単位とし1日3単位75人を標準とする」というもので,生活療法時代の画一的な集団作業を想定した基準といえる.その後,精神保健福祉法の改正を経て,精神保健福祉の改革ビジョンの「入院医療中心から地域生活中心へ」の基本方針のもと,障害者自立支援法(総合支援法)によるサービスが運用されている.精神科病院では,長期在院者の退院促進と地域移行,救急・急性期治療病棟や,認知症,気分障害,発達障害,物質依存などの多様化する疾患への対応,訪問を含む外来医療,就労支援,司法精神医療,地域包括ケアへの参画など,精神科OTに期待される役割は格段に増加している.これらの期待に応じるには個別対応が不可欠であるが,「2時間を標準,25人を1単位」とする算定基準は未だ改正されておらず,OT業務拡大の大きな足枷となっている.
 会員統計資料によると,過去10年間(2011−2020)の作業療法士の増加数(増加率)は,身体障害領域10,291人(45%),老年期障害1,770人(22%),発達障害領域946人(63%),精神障害領域778人(13%)で,精神障害領域が最も少ない.2019年の調査では,精神科に従事する会員の 85 %が民間病院に所属し,平均39人の患者を受けもち,1日に19.6件の精神科OTを算定している.対象者は60歳代の長期入院患者が最も多く,身体合併症への対応が求められている.84%の施設が救急病棟の患者に関与し,90%以上がカンファレンスに参加しているが,外来OTの実施率は47%,退院前訪問は35%,退院時指導は22%と少ない.手工芸・創作・芸術活動は約90%,身体運動は85%,余暇活動は83%,ADL/IADLは63%の施設で実施されていたが,生活圏拡大活動は35%,心理教育は33%,認知リハは27%,職業関連活動は16%程度の実施率に留まっている.
 これらの調査結果は,需給バランスの悪さ(マンパワー不足)を背景に,役割期待に充分応えられていない精神科OTの実情を表し,課題解決には量と質を担保する組織的な取り組みが必要である.作業療法士の多くが入院患者の精神科OTに携わっている現状を踏まえ,本講では有効性が検証された個別OTのプログラムと研究成果を紹介し,精神科OTの行方を考える機会としたい.