第57回日本作業療法学会

講演情報

基調講演

[KL-3] 基調講演3

2023年11月11日(土) 13:00 〜 14:30 第1会場 (劇場棟)

座長:田平 隆行(鹿児島大学医学部 保健学科)

[KL-3-1] 新時代の認知症医療におけるOTの役割と期待

池田 学 (大阪大学大学院医学系研究科)

高齢者、とりわけ認知症を抱える高齢者にやさしい地域社会(Dementia Friendly Community)づくりは、認知症施策推進戦略(新オレンジプラン)の副題にも掲げられているが、このように強調されなければならないほど、現代社会は高齢者、特に認知症を抱える高齢者にはやさしくない、生きづらい社会になっているということの裏返しと考えるべきであろう。特に、65歳以上を含む全世帯の60%を超えた独居高齢者ならびに高齢者夫婦だけの世帯の急速な増加に伴い、地域における一人暮らしの初期認知症や軽度認知障害(MCI)段階の高齢者が急増し、このような虚弱高齢者に対する生活支援が喫緊の課題になりつつある。
本年6月に成立した認知症基本法でも、認知症の人が地域において尊厳を保持しつつ、他の人と共生することの重要性が強調されるとともに、認知症の予防、診断・治療・リハビリ等に関する研究成果の普及・活用・発展させるという基本理念が示されている。今後、本法律の理念に沿って、さまざまな認知症施策が展開されることになるため、地域での生活支援に科学的な介入や環境調整が実施できるOTの役割は重要である。また、本年7月には米食品医薬品局がアルツハイマー病に対する疾患修飾薬レカネマブを正式承認したが、今後超早期診断が加速し、就労支援や自立した生活の維持のための支援が、認知症治療の大きな流れになることが予想される。多職種チームによる疾患特徴に基づく介入の中心的な役割を果たす専門職としてのOTに対する期待は大きい。
我々も、独居のMCIや初期認知症高齢者に対する見守ることを目的に、OTを中心とした多職種のアウトリーチによる生活支援と、虚弱高齢者の日常生活にウェアラブルセンサーやカメラなどのデバイス/センサ、ヒト型会話ロボットを導入して、自宅での観察と働きかけから身体的不活発や認知的不活発、睡眠障害を検出し、予防的介入を可能とするヘルスケアサービスモデルの実現を目指している。さらに、コロナ蔓延化で多職種による訪問が困難になる中で、予めOTが作成したマニュアルに沿って患者家族が患者宅のポイントになる場所を写真撮影し、そのデータを基に多職種で環境調整の提案をする(カメラを用いた非訪問型の居住環境および生活機能評価ツール)の手法も開発している。本講演では、このような最近の研究成果についても紹介してみたい。