第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-14] 一般演題:脳血管疾患等 14

2023年11月12日(日) 09:40 〜 10:40 第2会場 (会議場A1)

[OA-14-4] 価値のある作業の再獲得を通して,介助に依存的な生活から行動変容に繋がった事例

佐藤 健太, 橋口 直矢 (医療法人渓仁会 札幌渓仁会リハビリテーション病院リハビリテーション部)

1.はじめに
回復期においてADOCを用いた作業に焦点を当てた介入は,健康関連QOLに改善がみられるが,FIMにおいては有意差がなかったと報告されている(友利ら,2015).本事例は回復期入院後,介助に依存的な生活が遷延し支援に難渋したが,ADOCを用いて本人にとって価値の高い“プラモデル制作”という作業に着目し,代償手段を考案し作業を再獲得した.その結果,FIMの改善にも波及効果を認め,退院支援の糸口となったため以下に報告する.本報告に際し,本人に紙面にて同意を得た.
2.事例紹介
【診断名】多発性脳梗塞【年齢】50歳代前半男性【現病歴】X年Y月Z日に発症し,Z+37日に当院回復期病棟入院【既往歴】手根管症候群,腱板損傷【生活歴】X—2年に親が逝去.その後は戸建てに独居で相続資金で生活.職歴は無く,ひきこもり傾向であった.Y—10月に精神科受診し注意欠如多動症(ADHD)の診断を受け,自立支援訓練を開始する予定であった.KPは弟だが病前より関係は不良であり,今後の援助は一切困難と意向あり【Demand】アパートで単身生活をしたい.
3.評価(Z日+38~41日)
【麻痺】BRSⅡ-Ⅱ-Ⅱ,感覚障害なし【疼痛】麻痺側腱板疎部,手根管部【バランス】FBS 17/56点【認知】MMSE27/30点,TMT—JPartA63秒PartB112秒【ADL】FIM71/126点(運動44点認知27点)食事や整容のみ非麻痺側で自立.その他のADLは車いすレベルで要介助.【精神面】PHQ-9日本語版18/27点と抑うつ傾向【病棟生活】常に病衣で生活し,リハビリ以外は臥床傾向.
4.介入経過
【第Ⅰ期】(Z+41~82日)機能的電気刺激療法や,ADL練習を中心に,毎日2~3単位実施.機能改善は乏しかったが,ADL能力は短下肢装具と杖使用し見守り歩行も可能となった.しかし,できるADLに対して本人の自立に対する意欲は低く,FIMの改善は乏しかった.【第Ⅱ期】(Z+83~126日)ADOCを用いて本人の重要な作業と今後の展望について確認.「どうしてもプラモデルをやりたいが,片手では絶対無理」と語ったため,共有目標を,“片手でも環境設定をしてプラモデルの制作活動を病棟で行う”と作業に焦点化したTopDownアプローチへ変更した.方法としては麻痺側手での材料の固定練習やクリップスタンドを作成し,材料の切断,接合するなどの両手作業の工程を補填し,一連の動作が可能となったタイミングで病棟自主トレーニングへ移行した.
5.結果(Z+120~126日)
【麻痺】BRSⅡ—Ⅱ—Ⅲ【疼痛】変化なし【バランス】50/56点【認知】MMSE30点, TMTPartA38秒PartB81秒【ADL】FIM107/126点(運動74点認知33点)と改善し短下肢装具,杖歩行レベルでADL自立【精神面】PHQ-9日本語版1/27点と抑うつの改善を認めた【病棟生活】毎日着替えを行い,病棟自主トレーニングでは余暇のプラモデル制作に励んでいた.単身生活に向け必要な作業をスタッフに相談する機会が増加した.退院先は希望していたアパートでの単身生活を前提に,居宅施設へ退院の運びとなった.
6.考察
回復期ではADLの獲得を優先目標とする場合が少なくないが,本事例は生活背景から個別性を重視し,ADOCを用いてプラモデル制作という価値のある作業を中心に,生活の再構築を図った.片手だけでは困難な動作の代償を確立し,価値のある作業を再獲得したことが,波及的にADL自立への動機づけとなり行動変容に至ったと考える.回復期においても,ADOCを用いた作業に焦点化した介入が,介助に依存傾向を示す患者に対しては,退院後の生活イメージの共有及びFIMの改善に効果的であることが示唆された.