第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-2] 一般演題:脳血管疾患等 2

2023年11月10日(金) 13:20 〜 14:20 第3会場 (会議場B1)

[OA-2-5] 右半側空間無視を呈した脳卒中患者に対する振動刺激療法の効果

今井 卓也1, 小林 昭博2 (1.富岡地域医療企業団 公立七日市病院リハビリテーション部, 2.群馬医療福祉大学リハビリテーション学部)

【はじめに】半側空間無視(Unilateral spatial neglect;以下,USN)は,高次脳機能障害の中でも発生頻度が高く,右半球損傷患者の4割程度に発生し(Bowen,1999),左半球損傷でも重症度は変わらない(Suchan ,2012).USNに対するアプローチとして, 脳卒中治療ガイドラインでは,反復性経頭蓋磁気刺激,経頭蓋直流電気刺激,プリズム眼鏡などが推奨グレードBとされているが,汎用性は乏しい.今回,右USNと右半盲により,日常生活動作を中心とする生活障害を認めた事例に対し,振動刺激療法の効果を検証したため以下に報告する.本研究は,公立七日市病院倫理委員会の承認を得た上で,事例・家族に同意を得ている(承認番号:20220120).
【対象】左側頭葉・後頭葉出血と診断され,右USNと右半盲,その他高次脳機能障害を呈した80歳代の女性.第25病日に当院回復期リハビリテーション病棟へ転院し,作業療法を開始した.Fugl-Meyer Assessment上肢項目は66/66点であったが,右空間の探索が困難であり,簡易上肢機能検査(Simple test for evaluating hand function;以下,STEF)は右51/100点,左62/100点と低下を認めた.Catherine Bergego Scale(以下,CBS)は14/30点,Behavioural inattention testの線分抹消試験は36/36点,星印抹消試験は52/54点,線分二等分試験は4/9点であった.第45病日には,線分抹消試験は36/36点,星印抹消試験は53/54点,線分二等分試験は9/9点と改善を認めたが,CBSは6/30点と無視症状は残存しており,STEFも右64/100点,左80/100点と右の低下は残存していた.Otaテスト(Ota,2001)では,自己中心性の無視所見はなかったが,物体中心性の無視所見を認めた.
【方法】シングルケースデザインのBAB法を用い,各期間は3週間とした.効果判定は,1週間に2回の頻度でSTEF,CBS,Stroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS)視空間認知を評価した.STEFは右空間探索時のエラー数も計測した.A期は視覚探索訓練,有酸素運動,日常生活動作練習,家事動作練習,B期は振動刺激療法,視覚探索訓練,日常生活動作練習,家事動作練習を実施した.振動刺激療法は,Schindlerら(2002),Johannsenら(2003)の報告を参考に,右頸部に振動刺激を20分間与えた.効果判定の分析は,最小自乗法による回帰直線のあてはめ,二項分布,Percentage of phase B Exceeding the phase A Median(以下,PEM)を行った.
【結果】STEF右の中央値(点)/回帰係数は,B1期69.5/1.2,A期74.0/-0.228,B2期79.5/2.514,AB2間の二項分布はp<0.05,PEMは100%(大きな変化)であった.STEFエラー数の中央値(点)/回帰係数は,B1期2.5/-0.8,A期2/0.114,B2期0/0.228,AB2間の二項分布はp<0.05,PEMは100%(大きな変化)であった.CBSの中央値(点)/回帰係数は,B1期5/-1.2,A期4/-0.171,B2期4/-0.057,AB2間の二項分布はp>0.05,PEMは17%(小さな変化)であった.SIAS視空間認知の中央値(点)/回帰係数は,B1期92.5/-36.857,A期75/-16.571,B2期50/-9.428,AB2間の二項分布はp>0.05,PEMは83%(中程度の効果)であった.
【考察】振動刺激療法を実施した結果,STEFの得点とエラー数,SIASの視空間認知で改善を認めた.Karnathら(1993)は,頸部への振動刺激により運動覚性錯覚を生じると報告しており,Shomsteinら(2010)は,視空間性注意のネットワークについて,受動的注意機能と能動的注意機能の報告をしている.本研究では,振動刺激の運動覚性錯覚により,右空間への能動的注意機能が改善した可能性が示唆された.しかし,CBSなどの生活場面で有意な変化はなく,受動的注意機能への効果は認めなかったと考える.