第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-3] 一般演題:脳血管疾患等 3

2023年11月10日(金) 13:20 〜 14:20 第4会場 (会議場B5-7)

[OA-3-5] 脳卒中片麻痺患者の重症度別にみたADL回復に至るまでの日数

門脇 一樹1, 野本 正仁1, 石森 卓矢1, 富田 庸介2, 美原 盤3 (1.公益財団法人脳血管研究所 美原記念病院リハビリテーション部, 2.公益財団法人脳血管研究所 美原記念病院リハビリテーション科, 3.公益財団法人脳血管研究所 美原記念病院脳神経内科)

[目的]令和4年度診療報酬改定における回復期リハビリテーション(リハ)病棟入院料1の算定要件では,入棟時のFIM点数55点以下と定められている重症患者割合が入院患者の4割以上であること,実績指数が40以上であることが示され,重症患者の効率的なADL向上が求められている.我々は先行研究においてFIM点数の改善までにかかる日数の要因を分析し,若年で発症から回復期リハ病棟入棟までの日数が短い方が短期間でADLの向上を期待できることを明らかにした.しかし,これらADLの向上までにかかる日数に関して重症度による違いについては十分に議論していない.今回,重症度別にFIM点数の改善にかかる日数の比較とその要因について検討したので報告する.
[対象]令和2年4月以降に入院し,令和4年4月までに退院した初発の脳卒中片麻痺患者318名を対象とした.なお,死亡や入院中の状態悪化した患者は除外した.
[方法]対象を重症患者群(FIM18~55点)と中等症・軽症患者群(FIM56~104点)の2群に分類した.当院では,1週間に1度FIM点数を評価しており,分析にあたりFIM点数のMinimally Clinically Important Difference(MCID)である22点以上の変化があった時点をイベントに設定し,各群のカプランマイヤー曲線を描き,イベントまでの日数を時間変数,重症患者群と中等症・軽症患者群を従属変数としてログランク検定を行った.さらに,年齢,発症から回復期リハ病棟入棟までの日数,回復期在棟日数,総入院日数,入棟時の上肢手指下肢Brunnstrom stage(BRS),入棟時FIM点数を説明変数としたCox比例ハザード分析をそれぞれの群内で行い,FIM点数のMCIDに達するまでの期間に影響する変数のハザード比(HR)を算出した.なお,説明と同意に関しては,インフォームドコンセントを省略する代わりに,当法人ホームページにて研究情報を公開し,対象者が拒否できる機会を保障し,当法人倫理審査委員会の承認を受けた(受付番号114-06).
[結果]MCIDに達するまでの期間に関して,重症患者群は80.6±5.1日,中等症・軽症患者群は37.1±2.7日と重症患者群が有意に長かった(p<0.05).MCIDに達するまでの期間に影響する因子は,重症患者群は,年齢,下肢BRS,回復期在棟日数,入棟時FIM点数が挙げられた(p<0.05).中等症・軽症患者群は,下肢BRS,入棟時FIM点数が挙げられた(p<0.05).入棟時FIM点数に関しては,重症患者群のHR1.04に対し,中等症・軽症患者群はHR0.97であり,1.0を跨いで異なっていた.
[考察]重症患者群は中等症・軽症患者群に比べFIM点数の改善に多くの時間を要し,FIM点数の改善にかかる期間の共通している要因には下肢BRSと入棟時FIM点数が挙げられた.しかし,入棟時FIM点数に関して,重症患者は入棟時FIM点数が高い方が早くADLが向上し,中等症・軽症患者は入棟時FIM点数が低い方が早くADLが向上しやすいことが示された.すなわち,FIM点数18点に近い重症患者は効率的なADL向上が期待しがたく,FIM点数55点前後の中等症患者においては効率的なADL向上を期待でき,FIM点数104点前後の軽症患者では天井効果の働きにより効率的なADL向上が期待しがたいことが示唆される.現行の回復期リハ病棟入院料1を決定する実績指数は患者の重症度を問わず40と設定されている.しかし,多くの病院の回復期リハ病棟入院患者には,本研究で示された重症患者や軽症患者のように効率的な改善を期待しがたい患者も多く存在することが想定される.本研究の結果から,診療報酬制度における回復期リハ病棟入院料算定要件としての実績指数は,重症患者と軽症患者は指数値を低くし,中等症患者は高くするなど,重症度ごとに指数値を設定することが適切と思われる.