第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-8] 一般演題:脳血管疾患等 8

2023年11月11日(土) 11:20 〜 12:20 第3会場 (会議場B1)

[OA-8-5] 回復期リハビリテーション病棟にて脳梗塞患者に対してNOMA手・上肢機能診断を用いて評価・介入を行い書字速度向上が図れた事例

伊東 璃海, 松澤 良平 (IMS(イムス)グループ イムス板橋リハビリテーション病院リハビリテーション科)

【はじめに】NOMA手・上肢機能診断(以下,NOMA)は軽~中等度の機能障害を有する手・上肢について,障害の質を特定し,治療的機能訓練において解決すべきポイントを明らかにすることを目的として開発されたものである.内容としては,「手・上肢の使用状況の調査」「手のフォーム」など検査A〜Hの8種および総合診断によって構成される.A,B,C,G,Hの検査では質の度合いについてGood~Zeroの5段階で評定される.今回,脳梗塞を呈した方に対して,NOMAを使用して障害の質を特定することで,手指機能の向上に繋がり,書字速度向上に繋がった事例を経験した.今後,脳血管障害の方に対して書字の介入の一助と思われるため報告する.本発表については,本人に口頭および書面で同意を得た.
【事例紹介】A氏,50代男性.X月Y日に左脳梗塞で急性期病院に入院し,Y+12日に回復期病棟に転院した.病前は営業職として働いていた.著明な感覚障害,高次脳機能障害は見られなかった.仕事において会議や日常的なメモ取りなどの書字獲得の希望が挙がり介入を行ったところ,書字は可能となった.しかし,100文字の書字で4分程度要し速度の低下が著明であり,仕事での使用は実用的ではなかった.そこで,Y+71日にNOMAを用い,手指の問題点の抽出を行い,作業療法計画を変更することにした.
【作業療法評価】Br.stageは上肢VI,手指VI.FMAは64点で,STEFは右上肢97点,左上肢98点,ARATは57点であった.NOMAは,A,B,D,E,Hでは,治療的訓練の必要性が少ないレベルとなり,C手の動きのパターン,Fスピード課題,G正確さにて著明な拙劣さが確認された.Cでは,ケータイのキー押し課題にて,上から3番目(Poor)となった.F母指スピード課題の項目で健側30回,患側14.5回と左右差が著明にみられた.G正確さ課題では,筆記具の保持方法はAb-D型であることが確認され,減点は見られていないが所要時間を要する場面が見られた.以上の結果から,全般的に母指と他指の分離が必要だと考えられた.加えて,A氏が課題に挙げている書字に向けて母指の動きの改善が必要だと考えられた.
【介入】母指と他指の分離に対しては,固定されたボルトに母指または示指でナットを回して締める課題などを実施した.母指の動きの改善に対しては,筆記具を使用したタッピング課題,縦線課題,スマホを使用して画面をスワイプするなどを実施した.併せて,筆記具を使用し縦線,横線を引く練習や図形の模写課題を実施した.筆記具は,本人の動きの質に合わせて太さで段階付けを行った.介入中は手内筋の出力向上目的で感覚閾値で電気刺激を併用しながら実施した.介入頻度は毎日,1日1~2時間であった.
【結果】Y+79日に再評価した.NOMAのCケータイのキー押し課題にてパターンが改善し初期評価のPoorからGood(最もよい)まで向上した.Fスピード課題で健側30回,患側24回と左右差が小さくなった.100文字2分程度で可能となり,仕事で書字をする際に実用的なスピードまで上昇し,A氏は「このレベルならできそう」と発言があった.
【考察】A氏は,通常の介入にてFMA,STEF,ARATは概ね満点となるレベルまで改善した.しかし,これらの評価では,生活で使用する物品を操作する障害の質の精査は困難であり,書字のスピード向上を図ることができなかった.先行研究ではNOMAを使用することで作業療法プログラムの変更を認めたとの報告がある.NOMAを使用することで,手指の動きの細かい問題点の抽出を行うことができ,検査結果を介入に活かしたことで書字スピードの改善につながったと考える.今回は単一事例であり,今後複数の事例に対する有効性を検討をしたい.