第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等/援助機器

[OA-9] 一般演題:脳血管疾患等 9/援助機器 1

2023年11月11日(土) 12:30 〜 13:30 第3会場 (会議場B1)

[OA-9-5] 尿意の数値化とフィードバックを繰り返したことで日中の失禁が無くなった事例

前澤 茜里, 大舘 哲詩 (苑田会 花はたリハビリテーション病院リハビリテーション部)

はじめに
排尿障害は脳卒中患者の30~70%に合併し,患者のADLやQOLの低下を招く重要な問題である(BrittainKRら1998).尿意を訴えない介護老人保健施設入所者に対し,尿意を確認し,トイレ誘導を行うことで失禁が減少したと報告がされている(形上五月ら2011).一方で尿意のない脳卒中患者に対し,時間を決めてトイレに誘導をする以外の尿意再獲得に向けた介入は調べた限りで報告されていない.今回,尿意が曖昧な為に排尿が自立していない患者に対し,尿意を10段階で示させフィードバックを行ったことで排尿のコントロールが可能になった為,報告する.
症例
50歳代男性.診断前日に体動困難となり,翌日に救急搬送され右頭頂葉ラクナ梗塞および右内頚動脈閉塞の診断を受ける.23病日にリハビリ継続目的で当院へ転院した.BrsⅢ-Ⅲ-Ⅲ.著明な感覚障害はなし.MMSE21点.移動と移乗は車椅子で見守り,トイレ動作は軽介助だった.排泄は終日オムツを着用し,トイレへは失禁が多い食事前後と希望時に誘導していた.便意はあり,排便後にナースコールでおむつの交換を依頼できていた.一方で尿失禁に対しては無頓着な様子で,「気づいた時には出ていたりもするけど,オムツを交換してもらえば済む話だから」との発言が聞かれた.“トイレに行く”のCOPMは重要度-遂行度-満足度で10-1-1だった.
本報告に際し,本人には口頭で説明し同意を得ている.
方法
43病日より開始.OT介入時に尿意を10段階で確認後,尿意の有無にかかわらずトイレ誘導を行った.尿意の段階,失禁の有無,トイレでの排尿の有無を記録し,どのような尿意の際に失禁や排尿が生じているか口頭でのフィードバックを行った.
結果
介入5日目までは失禁への気づきは無く,尿意の強さと排泄の有無は関係が無かった.6日目から8日目は尿意が高い日はトイレでの排泄があり,尿意が低い日は「尿意を感じたと思ったら出ていた.」「さっき出たばかりだからパット変えてくれる?」といった発言が聞かれ,すでにオムツ内に失禁していた.9日目に「感覚をつかんだ」と話し,それ以降はリハビリ前にトイレを済ませておくなど,尿意を認識し,トイレへの介助を自発的に依頼できるようになっていた.これにより日中の失禁が無くなった為,11日目で介入を終了した.介入終了時のCOPMは遂行度-満足度が5-8だった.さらに介入終了から5日後より,夜間の失禁も無くなった.終日失禁が無くなった後のCOPMは遂行度-満足度で10-10だった.
考察
排尿援助には尿意を意識的に確認することが重要である(形上五月ら2011).一方その報告では,本来尿意を感じられるが,援助者が尿意は無いと判断したために尿意を訴えなくなった人のみ,尿意の訴えが改善していた.本症例は脳卒中後,実際に尿意を感じにくくなっていたが,介入を通して排尿自立に至った.本症例のように尿意を感じにくい患者に対しても,尿意を確認することで尿意の改善に関わる可能性がある.認知神経リハビリテーションでは,対象者自らが認知問題に仮説を立て,比較・判断するプロセスによって学習できる治療計画が重要とされている(齋藤佑樹ら2014).本介入では,脳卒中により病前と異なる感覚になった尿意を,具体的に10段階で表し,実際に生じた失禁や排尿の有無を確認した.これにより症例は,脳卒中後の尿意の程度と失禁や排尿との関連に着目でき,それぞれの比較と判断を繰り返したことで排尿をコントロールできるようになり,日中の失禁が無くなったと考える.