第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

心大血管疾患/神経難病

[OB-1] 一般演題:心大血管疾患 1/神経難病 2

2023年11月11日(土) 14:50 〜 16:00 第5会場 (会議場B2)

[OB-1-5] 子育て世代のALS患者におけるコミュニケーション支援

西岡 貴志1, 山川 勇2, 吉田 奈央1, 澤野 翔一朗1, 漆谷 真2 (1.滋賀医科大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.滋賀医科大学内科学講座 脳神経内科)

【はじめに】近年,患者の希望や価値観に沿った将来の医療・ケアなどアドバンス・ケア・プランニング(ACP)が重要視されている.一方で,ACPの問題点に患者が将来の状況を予測する事の困難さや時期や状態に応じた複数回の対応が必要とされる.筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者のコミュニケーション支援(CS)も同様に,機器選択と先行的導入には個別性の配慮が望まれる.
【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に則り,本学会報告に際して本人より同意を得た.
【症例紹介】症例はALS(罹病期間341日) 30代,女性.母子家庭で主介護者の両親と同居中.診断後,エダラボン投与と非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)を導入.在宅療養も経時的に四肢及び呼吸機能低下,体重減少を認め胃瘻を増設.以降は胃瘻を介した栄養療法で体重は維持し,胃瘻交換の定期入院と外来診察で経過観察中である.
【経過・結果】診断後から現在のCS経過を3phaseで紹介する.評価は,カナダ作業遂行測定(COPM),特定疾患に共通のQOL尺度(QOL),機器の満足度評価にQUEST2.0ver(QUEST)を用いた.
〈PhaseⅠ:体験期 機器紹介・情報提供〉ALS機能評価スケール改訂版 (ALSFRS-R) 32点.エダラボン投与とNPPV導入目的で入院.COPMは,子供との遊び (重要度/遂行度/満足度) 8/5/3 
医師からCSの情報提供があり,症例の意思を確認の上,言語聴覚士と共に持参スマートフォンで音声合成アプリによる音声録音を実施.また,代替・拡大コミュニケーション手段(AAC)支援機器の情報提供やスイッチ操作を体験.症例の価値観の共有化のため,ライフラインチャートで過去現在の自分史を作成した.症例の発言:「少し希望が持てた」.
〈PhaseⅡ:導入前期 視線入力及びスイッチ操作練習〉ALSFRS-R 28点.誤嚥性肺炎の加療及び胃瘻交換目的で入院.COPMは,学校行事の参加 9/3/3 四肢及び呼吸機能低下で床上生活時間の増加,NPPVは終日使用.肺炎の改善後,視線入力装置とセンサー型スイッチでタブレットアプリの操作練習を実施.視線入力やスイッチ操作は,QUEST: “使いやすさ” ,“使い心地” 共に 4(満足)だった.また,退院時前の多職種カンファレンスで保健師を含む地域スタッフにCS情報を提供した.QOL:6/18点 症例の発言:「子供とはできるだけ一緒にいたい.遊んだり,宿題みたり,動画みたり.子供の卒業式や入学式も出たい」.
〈PhaseⅢ:導入期 意思伝達装置の使用〉ALSFRS-R 14点.主介護者の手術入院により,レスパイト目的で観察入院.COPMは,家族とのコミュニケーション 10/8/8 床上生活にて車椅子移乗はリフトを利用中.入院前に保健師の個別支援にて視線入力型の意思伝達装置を購入,視線入力は操作良好であった.症例の希望に沿い,音声合成アプリとの同期にて,文字盤のテキスト出力は体験期で保存した合成音声が利用可能となり喜びの表出がみられた.視線入力操作は,QUEST:”使いやすさ”,"使い心地" 共に5 (非常に満足)であった.QOL:9/18点 症例の発言:「意思伝達装置を使ってメッセージアプリで友達や元同僚とつながっている.子供部屋の子供達にこれでトークが出来るようになった」.
【考察】ALS患者は症状進行の中で,役割の損失による精神的苦痛を経験しており,患者に寄り添う支援が求められる.患者の価値観や希望の言語化及び共有化を進める事で,症状進行の中でも変わらない母親としての想いに触れることができた.また,ACPの将来に備えた関わりで,早期からのCSの情報提供や機器の操作練習,成功体験の促通が,現在のハイテクエイドのAAC導入による母親の役割の再獲得や満足度の向上に寄与したものと考える.