第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

運動器疾患

[OD-2] 一般演題:運動器疾患 2

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 第7会場 (会議場B3-4)

[OD-2-3] 後方進入法による人工股関節全置換術後の靴下着脱動作の獲得に向けて

田口 敦也1, 丹羽 結生1, 和田 満成1, 稲垣 忍1, 松本 正知1,2 (1.桑名市総合医療センターリハビリテーション室, 2.早稲田大学大学院スポーツ科学研究科)

【はじめに】人工股関節全置換術(以下,THA)後に生じる靴下の着脱動作の制限は,患者満足度を低下させる一因とされている(対馬栄輝,2014).靴下の着脱動作は股関節の屈曲可動域が重要とされているが,後方進入法において術後早期の過度な屈曲は,縫合された短外旋筋群を破綻させる可能性がある(Paul M,2009).そのため,運動療法や動作指導の際に注意が必要である.しかし,その具体的な術後早期の運動療法の報告は少なく,十分ではない.当院では,術後早期の靴下の着脱動作の獲得に向け,外転と外旋の複合運動(以下,外転・外旋運動)を優先的に獲得させる運動療法を行っている.本研究では,我々が行っている運動療法とその結果,そして若干の考察を加え報告する.
【対象と方法】対象は,当院で2020年1月から2023年1月までにHip OAと診断され,後方進入法にてTHAを施行した31例35股のうち,単純X線画像とCT画像上でインプラントのアライメントが,過去の報告(吉峰史博,2014.Lewinnek,1978)のsafe zone内で,過度な前方開角やステムの前捻を認めず,術中に外転・外旋運動などでインピンジメントや易脱臼性を認めなかった28例32股とした.内訳は,女性20名,男性12名で平均年齢は68.3±7.5歳であった.手術では,全例において関節包は可及的に縫合され,梨状筋と上双子筋・内閉鎖筋・下双子筋の共同腱は中殿筋後部線維に縫合された.評価項目は,骨盤固定下での股関節の各可動域に加え,外転・外旋運動の評価をFABER-testにて床から大腿骨外側上顆までの高さ(以下,Ft高)を計測した.また,日本整形外科学会股関節疾患評価質問票(以下,JHEQ)の靴下の着脱についての項目を使用した.各評価は,術前と術後1ヵ月に実施した.なお,対象には趣旨と倫理的配慮について十分に説明し,同意を得た.
【統計解析】術前と術後の可動域,Ft値,JHEQ値に対し,対応のあるt検定を行った.有意水準は5%未満とした.
【運動療法】運動療法は術後4日より開始し,外転と外旋方向の制限となる筋の筋収縮練習とストレッチングを行った.その後,可能な限り股関節の屈曲要素を少なくした 外転・外旋運動の獲得を背臥位から開始した.最後に,筋力練習として足部を引き寄せる練習を背臥位,股関節60°屈曲位,長坐位と段階的に設定し行った.
【結果】術前の平均可動域は外転17.2±7.7°,外旋16.9±11.3°で,Ft高の平均値は29.8±6.5cmであった.JHEQは,0.69±0.8点であった.術後1ヵ月の平均可動域は外転37.3±6.5°,外旋40.3±9.1°で,Ft高の平均値は20.3±4.0cmと改善した.JHEQは,3.21±1.0点と改善した.
【考察】本法を実施した結果,全例において股関節の可動域,Ftは術前に比べ術後1ヵ月で有意に改善し,靴下の着脱動作が獲得された.過去の報告では,靴下の着脱動作は屈曲可動域が少なくても外転・外旋運動で代償できるとされている(Johnston RC,1970).また,屈曲可動域が少なくても外旋可動域が30°以上であれば可能とも報告されている(川端悠士,2021).外転・外旋運動は,短外旋筋群や関節包が弛緩する肢位であり(Yu C. Lee ,2012 . Tsutsumi M,2022),我々の工夫として背臥位での外転・外旋運動より開始し段階的に股関節の屈曲角度を調節した.加えて,本運動はHip OAの進行やTHA後のOffsetの増加や脚延長により制限されやすい運動とされており(Arokoski MH,2004),術後早期からの改善は患者満足度を向上させる一助になると考えられる.本法は,後方進入法によるTHAでインプラントの設置角度や縫合組織などの手術情報を確認し,外転・外旋運動の改善に適応がある症例に有効な一法となる可能性があると思われる.