第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

運動器疾患

[OD-4] 一般演題:運動器疾患 4

2023年11月12日(日) 09:40 〜 10:40 第6会場 (会議場A2)

[OD-4-1] 手指切断後の幻肢痛に対するVirtual Reality Trainingの効果

吉村 学1, 佐藤 健治2, 五福 明夫3, 車谷 洋4, 砂川 融4 (1.川崎医療福祉大学作業療法学科, 2.川崎医科大学麻酔・集中治療医学, 3.岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科, 4.広島大学大学院医系科学研究科 上肢機能解析制御科学)

【はじめに】
 幻肢痛とは,四肢切断後の欠損部に生じる疼痛のことであり,重症化・慢性化しやすい難治性疼痛である.幻肢痛に対する治療では,ミラーセラピーの有効性を示す報告が散見されるが,動きが単調であり長期間の継続が困難となることが課題として挙げられている.そこで我々は,没入感やモチベーションを高める効果のあるVirtual Realityを利用した,Virtual Reality Training (VRT)を開発し,検討を行った.本報告では,手指切断後に幻肢痛を認めた症例に対し,VRTを実施し,幻肢痛強度と上肢活動量の変化を検討したため報告する.
【症例】
 40歳代の女性で,9年前に仕事中の事故で2~5指を切断した.欠損手指が手掌を貫く疼痛が持続しており,疼痛強度はVisual Analog Scaleで1日の最大が100/100mm,平均が82/100mmであった.受傷後は,主婦業となったが,疼痛が強く生活場面での患肢の使用が行えていない状態であった.本発表は倫理委員会の承認(5466)を得て行い,症例に書面にて説明を行い,同意を得た.
【方法】
 VRTは,椅子座位でヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着し,コントローラーで仮想手を操作した.HMDは,HTC社のVIVE®を使用し,コントローラーは断端部に固定して操作を行った.実施課題は,仮想空間内の傾斜のある板上を転がる球を仮想手で掴むことを反復して行った.また,VRT後には実施場面を撮影した動画を用いて,上肢の可動範囲や運動速度の変化をフィードバックし,日常生活場面で行えそうな活動を話し合い,目標の共有を行った.
 VRTは,1回30分間とし2~4週間に1回の頻度で実施した.シングルケースデザイン(ABAB型)を用いて,A期を第1基礎水準期 (VRTなし:4週間),B期を第1介入期(VRTあり:10週間),A’期を第2基礎水準期(VRTなし:8週間),B’期を第2介入期(VRTあり:10週間)とした.
 評価項目は,疼痛強度をShort-Form McGill Pain Questionnaire-2(SF-MPQ2)を用いて評価した.SF-MPQ2は,22種類の痛みに対して疼痛強度を0(なし)~10(考えられる最悪の痛み)で回答する質問紙である.また,連続24時間の両側上肢活動量をActiGraph社のGT9X® で評価した.GT9X®を左右手関節に装着し,入浴時以外の連続24時間の上肢活動量を計測した.
【結果】
 疼痛強度(SFMPQ-2)は,A期が147/220点,B期が128点,A’期が93点,B’期が100点と漸減を認めた.中でも,貫くような痛み・かじられる痛み・電気が走る痛みの疼痛強度の軽減を認めた.上肢活動量は,A・B期では非切断側を優位に使用していたが,A’期では切断側の活動量増加(A・B期の2倍)を認め,左右同等に使用が出来るようになった.特に,書字動作や洗濯ばさみの摘み,孫のおむつ交換の際に患肢の使用が可能となった.
【考察】
 手指切断後に幻肢痛を認めた症例へのVRTは,疼痛強度の軽減と上肢活動量の向上を認めた.幻肢痛強度の軽減においては,仮想空間内で欠損手指の運動錯覚を惹起することで,知覚-運動ループが再統合され,疼痛強度の軽減が図れたと考えられる.また,上肢活動量の増加においては,仮想空間内での患肢使用の経験や動画を用いたフィードバック,生活場面での使用機会の目標共有を行っていく中で,患肢使用の再学習に繋がったと考える.このことから,幻肢痛に対するVRTは,有用な介入手段となる可能性が示唆された.