第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

運動器疾患

[OD-4] 一般演題:運動器疾患 4

2023年11月12日(日) 09:40 〜 10:40 第6会場 (会議場A2)

[OD-4-4] 手の横アーチによる中手指節関節の伸展動作への抑制機能

中西 理佐子1, 牧田 優佳1, 菅原 寿姫1, 佐々木 秀一2, 上出 直人3 (1.横浜南共済病院リハビリテーション科, 2.北里大学病院リハビリテーション部, 3.北里大学医療衛生学部)

はじめに
第54回日本作業療法学会において,スポーツ外傷による示指及び小指の基節骨骨折に対するスプリント療法の症例報告を行った.このスプリントは,一般的に基節骨骨折の保存療法で使用されるナックルキャストとは異なり,骨折指と隣接する指のみの部分固定とし,治療しながらも使える手であるデザインとした.固定範囲を狭めることによる不安定性を防止するために,横アーチを強めることが中手指節関節(以下MPj)の伸展を抑制し,その結果固定性を高めていると仮説をたて,このスプリントデザインの有用性の検証を行ったため報告する.
方法
対象は,右利きで外傷歴・麻痺・先天性の欠損指や変形・可動域制限のない成人21名(女性16名,男性5名,平均年齢44,5歳,平均握力30,1kg)とした.手の横アーチを意識的に強めてサポートするスプリント(Palmar Supportive Splint:以下PSS)(第36回日本作業療法学会にて報告:「RAのMCP偏位に対するPSSの装着効果」)は熱可塑性プラスティック素材のオルフィットNS2,0mm(パシフィックサプライ株式会社)を使用した.PSS装着前と装着後の,示指及び小指のMPjの自動屈曲および自動伸展の可動域を計測し,統計学的に比較した.この際,手指の自動運動は骨折指と仮定し,最大出力はしないという前提のもと徒手筋力テストにおける3相当の出力量とした.関節可動域測定は,Fabrication Enterprises社製の手指用のFinger Goniometer 15,24cm Deluxeを使用し,測定者は筆頭演者の作業療法士1名とした.なお本研究は,当院倫理委員会の承認を得て実施し(承認番号1-20-10-7 UMIN:R000051579),全例より書面による同意を得た.
結果
PSS装着前/装着後の各平均可動域は,示指MPj自屈曲66.9±9.1/69.3±6.2(p=0,261),
伸展-23.3±10.3/-46.9±10.2(p=2,15E-10),小指MPj自動屈曲73.6±7.1/64.5±8.8(p=0.000242),伸展-17.1±12.4/-41.7±13.2(p=8.52E-09)とPSSを装着することで,示指・小指ともに屈曲角度に差はなかったが,伸展角度は有意に抑制されていた.(可動域の単位°を省略)
考察
本来,手の横アーチは母指と手指を対立位にし手指先の操作を効率よく行うために必要とされる.一般的に基節骨骨折の保存療法で使用されるナックルキャストは,全指のMPjを屈曲位に固定し手指屈伸を行い,指背腱膜にテンションバンドの役割を持たせ基節骨を背側から固定するという非常に優れた治療法である.今回の実験では手の横アーチのみを固定しMPjの可動域を計測したところ,仮説通りPSS装着後は示指,小指ともに伸展角度が有意に制限されていた.横アーチは手内筋の収縮によって成り立ち,手内筋マイナス肢位においてMPjは伸展位をとる.つまり横アーチを強めるスプリントデザインは,手指先を母指との対立位に誘導する機能と,一方でMPjの伸展動作を抑制する機能を持ち合わせ,この機能は,全ての手指を固定しなくても固定性を保つことができる点で有用であると考えた.
おわりに
外傷の保存療法において,急性期よりOTがスプリント療法を併用して介入し治療しながらも使える手であることは,スポーツ分野や日常生活に1日でも早く復帰することに貢献できる.そのためには患部の治療を進めるための適切な固定を,確実かつ最小限にするデザインの検討が不可欠である.