第57回日本作業療法学会

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一般演題

がん

[OF-1] 一般演題:がん1

Fri. Nov 10, 2023 12:10 PM - 1:10 PM 第7会場 (会議場B3-4)

[OF-1-4] 乳がん術後患者の上肢使用困難度に影響する因子の検討

丹治 梓, 佐々木 千晶, 伊藤 詩音, 成田 大地, 太附 広明 (JA神奈川県厚生連 相模原協同病院医療技術部 リハビリテーション室)

【序論】乳がんに対して乳房摘出術を施行された患者へのリハビリテーションでは,主にリンパ浮腫と関節可動域制限の予防が目的となる.リンパ浮腫については手術方法の変革により,そのリスクは減少してきている.その一方,臨床場面において,肩関節の可動域制限や,疼痛,不安によって生活上で患側上肢を使えず,日常生活に支障をきたす患者が散見される.今回我々は,乳がん術後患者の上肢機能を調査するとともに,日常生活における上肢の使用困難感に影響している要因の検討を行った.
【目的】乳がん術後患者の上肢機能早期改善に伴う生活水準向上を目的に,主観的な生活困難感及び上肢機能や疼痛,心理面を経時的に調査し,患者の上肢使用困難感に影響する要因を検討する.
【対象と方法】令和4年8月から11月までに乳房全摘出術および部分摘出術を施行された全41例の中から,HDS-R20点以下,既往に肩関節疾患があるものを除外した28例を対象とした.全例当院の乳がん術後のプロトコルに準じて介入を行った.調査時期は,術前,退院時(術後約1週),外来通院初回日(術後約1ヶ月)とした.情報収集は,カルテより患者情報(年齢,性別,利き手,仕事),医学的情報(診断日,既往歴,現病歴,重症度,合併症)を調査した.臨床評価は,肩関節周囲疾患の評価を参考に,肩関節可動域(屈曲,伸展,外転,外旋,内旋,結帯動作),疼痛(安静時,運動時のVisual analog scale:VAS),感覚(肋間上腕神経支配領域の表在覚,しびれ,痛覚過敏),握力,心理・社会的評価(Brief Scale for Psychiatric Problems in Orthopedic Patients:BS-POP),患者立脚型の上肢障害評価(Quick Disability of Arm Shoulder and Hands:Q-DASH)を実施した.統計処理は,RおよびJAMOVIを用いてQ-DASHに影響する因子について回帰分析を行った.優位水準はp <0.05とした.本研究は当院倫理委員会で承認を得ている.
【結果】対象の年齢平均(41-86)は64.1歳,女性28名であった.治療はBp2例,Bt26例,Btのうちセンチネルリンパ節生検にて陽性であったのは7例であり全例で腋窩郭清が施行された. 評価の結果(平均値),VAS(1週/1ヶ月)は安静時で2.8/3.6,動作時で19.1/30.7であった.Quick-DASH(disability)の(1週/1ヶ月)は16.2/13.3点となった.肩関節可動域健側比(1週/1ヶ月)は,屈曲が89.5/89.0%,伸展が96.0/97.3%,外転が88.3/86.9%,外旋が/95.7/98.4%,内旋が96.9/102.6%であった.BS-POP(1週/1ヶ月)は,Thで8.5/8.6,Ptで13.6/13.8点であった.術後1ヶ月のQ-DASHに影響する因子について,1ヶ月後の疼痛VAS,BS-POP,関節可動域を用いて回帰分析を行なった結果,運動時VASとBS-POP (Pt)のみ有意な関連性を認めた(R2=0.78, p<0.05).
【考察】今回,乳がん術後患者の1ヵ月までの経時的変化と,1ヶ月後の結果が主観的上肢使用困難度に影響する因子を検討した.経過として,Q-DASHでの生活困難度は術後に一度低下するものの改善傾向であった.それに対し,疼痛,ROMの屈曲,外転においては制限が残存していた.Q-DASHに影響する因子では,患者の心理・社会的問題と疼痛が示唆され,肩関節屈曲や外転時の創部の運動時痛や付随する心理的不安感が影響すると考えられた.そのため,乳がん術後のリハビリテーションでは,術後の運動や創部の管理などを行い,可動域改善を図ることや,患者の心理的な変化に注意することが,術後患者の生活水準の維持・改善のために重要であると考えられた.今後は継続して研究を行い,経過が長期化する症例について検証を行いたい.