第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

がん

[OF-2] 一般演題:がん2

2023年11月10日(金) 15:40 〜 16:50 第3会場 (会議場B1)

[OF-2-6] 運動負荷量を管理しADL拡大に繋がった症例

清水 亜里沙, 森尻 佐知子, 富樫 希望 (社会医療法人熊谷総合病院 医療技術部リハビリテーション科)

【はじめに】全エネルギー消費量(total energy expenditure;以下,TEE)と摂取量を参考に運動負荷量を調節し介入を行った結果,ADLが拡大し,自宅退院可能な身体機能を獲得できたため報告する.本発表に際して症例に説明を行い,口頭及び書面で同意を得ている.
【事例紹介】夫,長男と飲食店を営んでいる70歳代女性.夫と二人暮らし.家族関係は良好.話し好きで明るい性格.X-2年に当院にて胆管細胞癌の診断を受け,肝門部胆管癌左肝切除術を施行.発熱などで何度か入退院を繰り返した.X年Y月Z日嘔吐,体動困難を主訴に当院受診.意識レベルはJCSⅡ-10であった.胆管炎,播種性血管内凝固症候群の診断.HCUへ緊急入院となり,肺うっ血を呈していたため,鎮静剤を使用し気管挿管を行い人工呼吸器管理となった.Z+7日で人工呼吸器から離脱し,Z+10日に一般病棟へ転棟し疾患別リハビリテーションが開始された.
【作業療法初回評価】意識レベルはJCSⅠ-3であった.Barthel Index(以下,BI)10点,Functional Independence Measure(以下,FIM)49点.長期臥床に伴う筋力低下,腹水貯留による腹部膨満感,労作時息切れ,易疲労性が認められたが,基本動作は見守りで可能であった.握力は左右平均13.0㎏でありY-2月の入院時より4.5㎏の握力低下が認められた.主治医から離床促進の指示があったが,座位で少し会話をするだけでも息切れが見られた.「今回が一番きつい」と精神的苦痛を訴える場面もあり,口数は少なく,HOPEを聴取できる状況ではなかった.体重48.3㎏,BMI19.8,食事摂取量は0割~3割ほどであり,高カロリー輸液と合わせて1日のエネルギー摂取量は約1200kcalほどであった.
【経過】Z+12日「歩いてトイレに行きたい」との訴えがあった.歩いてトイレまで移動する運動強度は3 Metabolic equivalents(以下,METs)である.ベッド外で2~3METsの活動を行った場合の活動係数を1.3,気管挿管などの侵襲を考慮しストレス係数1.8とするとTEEは約2478kcalとなる.エネルギー摂取量は約1200kcalのため歩いてトイレへ行くことは負荷量が大きいと判断し,段階的にまずは座位の耐久性獲得を目標とした.Z+14日から食事摂取量が5割ほどに増え,車椅子に10分ほど乗車が可能となった.食事摂取量5割でのエネルギー摂取量は約1600kcalであり,またTEEは炎症値低下により,ストレス係数を1.2とすると約 1652kcalとなる.そのため食事摂取量が5割以下か以上かを確認し,腹部膨満感などによる労作時息切れも考慮しながら歩行距離など運動負荷量を調節した.Z+18日から車椅子でトイレ誘導を開始.トイレ内動作は自立しており,Z+20日にはリハビリの時間以外にも看護師と点滴台を押しながらトイレへ行く様子が見られた.Z+22日には病棟内歩行が自立し,1人で歩いてトイレへ行くことが可能となった.さらに精神的苦痛の訴えが減少し,会話も増え,笑顔も多くなった.
【結果】病棟内歩行自立,BI85点,FIM103点と病棟内のADLも概ね自立した.握力も左右平均16.0㎏となり,初回に比べ筋力も向上した.食事摂取量が6割~8割ほどに増え,主治医の許可があり家族からの持ち込み食も摂取可能になったため,高カロリー輸液が中止となった.Z+32日に家族と話し合いを行い,2階から1階へ生活様式を変更し,自宅退院に向けて環境を整えていく方向となった.
【考察】労作時の息切れや易疲労性が著明であったため,運動負荷量の調節をTEEとエネルギー摂取量を参考にした.その結果,エネルギー摂取量の変化に合わせて適切な負荷量で介入を継続できたことが要因となり,ADLが拡大し自宅退院可能な身体機能を獲得できたと考える.