第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

がん

[OF-3] 一般演題:がん3

2023年11月11日(土) 11:20 〜 12:20 第7会場 (会議場B3-4)

[OF-3-5] 当院血液腫瘍患者における認知機機能障害の頻度とその関連因子の調査報告

富樫 将平, 中川 麻由, 越智 万友, 谷内 涼馬, 長谷 宏明 (独立行政法人国立病院機構広島西医療センター)

緒言:血液腫瘍は高齢者に多く,加齢は認知機能の低下に影響を及ぼすといわれている.また,近年ではがん関連認知機能障害についての報告もあり,がん治療前の約30%に認めるとされている(Janelsins MC,2011).本研究の目的は,当院血液腫瘍患者の治療開始前の認知機能とその関連因子を調査することである.
対象/方法:対象は2021年5月から2022年12月に当院へ化学療法目的に入院し,作業療法が処方された血液腫瘍患者110名とした.除外基準は1)再発例,2)認知症の診断があるもの,3)作業療法評価ができなかったものとし,82名(男性39名,女性43名)を解析対象とした.治療開始前に認知機能評価としてMini Mental State Examination-Japanese(MMSE-J)を行い,カットオフ値は認知機能障害を23点以下,軽度認知機能障害(MCI)を24点以上,27点以下とした.認知機能障害の関連因子を調査するため,年齢,Geriatric8(G8),The Lawton IADL scale(IADL),Barthel Index(BI)を評価した.また,診療録より認知機能評価日の直前に検査されたC-reactive protein(CRP)値を抽出した.統計ソフトはEZR Ver.1.55を使用し,有意水準は5%未満とした.なお,本研究に際し,当院倫理委員会にて承認を得ている.
結果:年齢の平均は75.4±9.6歳,MMSE-Jは26.8±3.3,23点以下の患者は14名(17%),MCIに該当する24〜27点の患者は22名(27%)であった.G8の平均は12.1±2.7,IADLは男性4.3±1.1,女性7.1±1.5,BIは86.0±19.2,CRPは1.5±3.0(mg/dl)であった.MMSE-Jが23点以下の患者をA群(n=14),24点以上の患者をB群(n=68)とし,年齢,G8,IADL,BI,CRPをマンホイットニーのU検定で群間比較した.その結果,BIでA群(62.9±24.9)がB群(90.8±13.8)よりも有意に低く(p<0.01),IADL女性でA群(6.2±2.1)がB群(7.4±1.1)よりも有意に低かった(p=0.03).その他の項目は,有意な差を認めなかった.続いて,MMSE-Jを目的変数,BI,IADLを説明変数としてロジスティック回帰分析を行った.なお,IADLは男女で評価スコアが異なるため,得点率に換算して解析を行った.その結果,BIが認知機能障害に有意に関わる変数として抽出された(オッズ比:1.07,95%CI: 1.03to1.11,p<0.01).次にMCIに該当した患者(n=22)をC群,MMSE-Jが28点以上の患者(n=46)をD群とし,同様に比較したところ,群間比較では年齢でのみ有意差を認め(p<0.01),年齢が認知機能障害に有意に関わる変数として抽出された(オッズ比:0.90,95%CI:0.84to0.97,p<0.01).
考察:がん患者における認知機能障害は,がん治療を行う上での意思決定能力の低下や治療アドヒアランスの低下など様々な影響を及ぼす.今回の調査では,治療開始前に17%の患者で認知機能障害を認め,ADLの低下が影響していた.治療開始前のADLが低い患者については,早期から認知機能障害を考慮した環境調整に作業療法士が関わることが必要と考えられる.また,ADL,IADLの維持,向上を目的とした作業療法介入が患者の認知機能に有益な影響を与える可能性がある.一方で,MCIについてはそれらからの判断は難しく,年齢を考慮した上で認知機能を含む評価を行う必要がある.血液腫瘍の治療は長期に渡るため,今後は認知機能の推移及びそれらに影響する因子を調査したい.