第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

精神障害

[OH-2] 一般演題:精神障害 2

2023年11月10日(金) 14:30 〜 15:30 第5会場 (会議場B2)

[OH-2-1] 精神科急性期病棟のセルフマネジメント能力獲得に向けた個別作業療法実践

山元 直道1, 古賀 誠2, 村田 雄一1, 川口 敬之3, 森田 三佳子1 (1.国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター精神リハビリテーション部, 2.昭和大学保健医療学部作業療法学科, 3.国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 地域精神保健・法制度研究部)

【はじめに】
 当院の精神科作業療法(以下OT)では,個別OTでセルフマネジメント能力獲得に努めた介入をしている.今回,個別+集団OT介入群(以下,個集群)と集団OT介入群(以下,集群)の各群を前後比較した結果,個集群の健康管理に対する意識変容が大きく見られたため報告する.研究にあたり当院の倫理委員会の承認を得た(A2022-032).
【方法】
 2021年11月~2022年6月(8ヶ月間)に当院の急性期病棟入院患者で,医師からセルフモニタリング(以下SM)表・対処方法獲得・クライシスプラン(以下CP-J)作成の目的で個別OT処方が出された個集群26名(34.5±16.5歳,男性8名,女性18名)と,生活リズムや行動活性の目的で処方が出された集団群25名(43.6±15.3歳,男性6名,女性19名)を対象とした.個集群はパラレルOTや病棟OTに加えて,個別OTで自身のストレス反応や病状悪化のパターンを振り返りSM表やCP-Jを作成した.さらに病棟生活やOTでの体験を通して病状悪化に関係する感情や思考,身体症状,行動を振り返った.集団群はパラレルOTと病棟OTのみ介入した.効果指標は失体感症スケール(岡ら,2019)と日本語版セルフマネジメント評価尺度(Mental Health Self-management Questionnaire: 以下MHSQ-J)(Morita Y et al, 2019)とした.OT開始時と退院時のスコアをWilcoxonの符号付き順位検定にて比較した.統計学的有意水準は5%とした.
【結果】
           個別+集団群                集団群         
MHSQ-J     開始時   退院時     p     開始時    退院時     p   
合計点    26.5±10.5⇒40.4±13.5  0.001   30.2±11.6⇒ 39.6±13.3  0.043
Clinical factor     9.2± 4.1⇒12.3± 4.2   0.030   9.7± 4.4⇒ 11.5± 4.1    0.200
Empowerment factor  12.4± 6.5⇒20.3± 7.1   0.003  14.2± 7.0⇒18.5± 8.2    0.091
Vitality factor      4.9±3.5⇒ 8.2± 3.7   0.005   6.3± 4.4⇒ 9.5± 3.8    0.012  
失体感      開始時   退院時     p      開始時   退院時     p   
合計点    65.9±13.5⇒58.2±12.3   0.002   58.6±18.9⇒57.2±10.4   0.586
体感同定困難    24.6± 7.4⇒22.9± 5.5   0.203   22.2± 8.5⇒22.4± 6.4   0.963
過剰適応     13.1± 4.4⇒11.8± 4.5   0.169   11.8± 6.1⇒11.9± 3.7   0.694
健康管理の欠如    28.3± 5.6⇒23.5± 5.8    0.001   24.6± 7.2⇒22.9± 5.0   0.016 
 個集群からは「今まで疲れに気付けなかったけど,これからは頑張りすぎずに済むかも」「体調が悪化する前に気付けそう」「休息や気分転換が大事だと気づいた」など,肯定的意見が収集された.
【考察】
 個別OTによるSM表/CP-J作成は,健康管理への意識変容に繋がる可能性が示唆された.休息・病状改善が主目的である精神科急性期のOTでは,入院が短期間であるため,直接“意味のある作業”の実践は困難だが,本報告の様に再発防止やセルフマネジメント能力獲得に向けた予防的/治療的作業療法介入は患者自身が”意味のある作業”を実施するための土台作りに寄与すると考える.
 精神科OTでの個別OTは臨床で行われているが医療経済的には成立が困難で,集団OTと個別OTを明確に分けた診療報酬の設定が望まれる中(山口,三橋,2015),個別OTの効果を発信する必要があり,今後はさらなる研究の実施が望まれる.