第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

精神障害

[OH-3] 一般演題:精神障害 3/MTDLP 3

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 第5会場 (会議場B2)

[OH-3-4] 統合失調症外来患者の引きこもりを改善した長期間・低頻度の作業療法

四本 かやの1,3, 奥村 満佐子2,3, 橋本 健志1 (1.神戸大学大学院保健学研究科, 2.心療クリニック中野, 3.神戸精神分析研究所)

【序論】我が国の精神科患者のうち,入院患者は30.2万人で15年間減少傾向にあり,外来患者は389.1万人で増加が続いている(厚労省, 2022).一方,精神科領域の作業療法(OT)士の大部分は単科精神科で精神科OTに従事している(OT白書,2015).演者は精神科外来患者を対象としたOTを実施している(四本ら, 2022他).常に1対1で作業遂行を聴取し,1回1時間,週1回以下の頻度で実施する点が,一般的な精神科OTと異なる.
【目的】引きこもりの青年期の統合失調症患者に対して,社会参加の改善を目標としたOT介入の結果,短時間就労が可能になった.安全に自閉的生活から社会参加を可能にした長期間・低頻度OTの特徴を報告する.
【方法】A氏は20歳代半ばの男性である.高校進学後,不登校や家族への粗暴行為があり,受診や服薬をしながら別の学校に一時期通学したが続かず,自宅に引きこもった.1年前に不眠で精神科受診し,統合失調症疑い・抑うつ状態と診断され治療開始した.通院含めコンプライアンス不良のため,主治医から自閉的生活の改善目的でOT紹介された.介入中,薬物療法に変更はなかった.なお症例から報告の同意を得ている.
【評価と方針】A氏は年齢相応の外観,痩身で中性的であった.「勧められたから(来た)」と述べ,学生時代の1度の喫煙が原因で「息苦しくなる」パニック発作様の身体的不調と厭世観を繰り返し述べた.生活歴と現在の生活状況,過覚醒状態のような過敏さや脆さから,再発が懸念された.心理検査ではIQ110(言語性IQ114,動作性IQ102,言語理解120:最高スコア,処理速度93:最低スコア),エネルギーの枯渇,認知・思考面に重度の障害を指摘された.機能の全体評定(GAF)50点,構造化評価システムsSOFAS(sSOFAS)26点であった.治療継続と再発予防を最優先に,支持的・受容的対応とした.心理教育を導入し,活動から参加へ目標を段階的に設定し,1回1時間,計32回34か月間OTを実施した.
【経過・結果】身体的不調への対処は何とかできていたが,A氏は「誰でもやってる」と述べる等,自身を肯定的にとらえることがなかった.数か月のOT中断が数回あり,主治医や父親の勧めで再開した際にも,そのことには触れなかった.A氏の状態に合わせ,一般的な保健情報の提供から徐々に心理教育を導入した.心理教育は,指定したWeb情報を自宅学習後,OTで確認し整理した.A氏の生活の中で取り組みやすい課題を複数提案し,A氏が選択した食事の片付けと短時間の散歩から開始し,徐々に作業の時間や強度を増加させ,社会参加の目標設定と実施後報告を継続した.その結果,友人との小旅行に出掛け,飲食店でのアルバイトを開始した.OT終了時,GAF65点,sSOFAS53点であった.
【考察】A氏は思春期に統合失調症を発症後,社会参加を試みたが失敗し,刺激を避け引きこもることで安定していた.OT導入後の数回の中断は,それまでの安定と治療意欲のなさに加え,強い厭世観のためと思われる.持続する症状の不安定さと対人経験の不足は,常に支持的なかかわりと到達可能な目標設定を必要とした.自宅学習はA氏の理解のペースを尊重し,Webの指定と事後確認により誤解を避け安全性を高め,統合失調症の再発予防として高いエビデンスの心理教育(Bighelli et al,2021)が可能になった.
 個別性と主体性を重視し,心理教育だけでなく,生活場面における目標設定と実践の反復で構成される長期間・低頻度でのOTは,治療意欲が乏しく再発リスクの高い地域在住の精神障害者の社会参加を改善した.