第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

精神障害

[OH-3] 一般演題:精神障害 3/MTDLP 3

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 第5会場 (会議場B2)

[OH-3-5] うつ病増悪とADL低下を呈した高齢女性に対するMTDLPを用いた退院支援

田結荘 秋嘉, 大西 和弘, 東條 秀則 (医療法人鴻池会 秋津鴻池病院リハビリテーション部)

【はじめに】当院では,身体障害領域に従事する作業療法士(以下身障OT)が,精神科病棟入院患者に対しても,医師の指示により個別の身体リハビリテーションを実施している.今回,うつ病の増悪により,精神科病棟へ入院した事例に対し,身障OTが精神科作業療法士(以下精神科OT)と協業し,生活行為向上マネジメント(以下MTDLP)を本人や多職種との情報共有ツールとして活用し介入した.自宅退院後も生活行為の継続に繋ぐことができた支援について報告する.本報告にあたり本人より同意を得ている.
【事例紹介】うつ病増悪後の80歳代後半の女性で,介護保険は要支援2,入院前生活は通所介護,訪問介護を利用し,入浴は見守り,その他ADLは自立し単身生活をしていた.食事の準備は配食サービス,自炊を併用していた.夕飯の一品を調理して食べることが日々の楽しみとなっていたが,上手く行えない日もあった.入院前は抑うつ症状の増悪を認め,好褥的となっていた.当院精神科へ入院となり,精神科OTによる個別対応は行っていたが,ADL低下が生じたため,後日身障OTが開始となった.
【初期評価】表情は硬く,身体機能では,両下肢の筋力はMMT2~4であった.精神・心理機能では,MMSEは23点,老年期うつ病尺度(以下GDS15)は14点であった.ADLではFIMは75点で,突進用の歩行を認めたため歩行器歩行見守り,入浴は一般浴槽の跨ぎ動作に介助を要していた.MTDLPでは,①ひとりで夕飯の一品を作ることができる②訪問介護の見守りのもと入浴することができることを合意目標とし,合意目標①②ともに実行度,満足度スコアは3であった.
【介入方針】ADL評価と並行して段階づけて運動強度を調整し,運動療法を実施していく.また,MTDLPでの合意目標についても段階づけて支援する.
【経過】第1期では,保護的に関わり,低負荷の運動療法を提供した.また,入院前生活の聴き取りや精神科OTと協業して生活行為アセスメントの評価を行い,多職種と共有した.
第2期では,院内の入浴は見守りとなった.退院前訪問を実施し,台所,浴室の測定を行った.身障OTより生活行為マネジメントシートを用いて支援内容を,家族,担当介護支援専門員(以下CM)と共有した.
第3期では,応用的,社会適応プログラムとして調理,入浴の評価を行った.調理については物品の運搬,包丁や鍋の操作も自立レベルで,入浴については浴槽の跨ぎ動作評価を行い見守りレベルであることを精神科OTと共有した.退院前カンファレンスでは,CMに生活行為申し送り表を用いて申し送りを行い,利用サービスへフォローアップを依頼した.
【最終評価】話しかけると穏やかな表情で返答し,身体機能では,両下肢の筋力がMMT4~5と向上を認めた.精神・心理機能では,GDS15は3点となった.ADLはFIMが100点となり,シルバーカー歩行自立,入浴は一般浴見守りとなった.MTDLPでは,合意目標①②ともに実行度,満足度スコアは7点となった.自宅退院後,夕飯の調理一部実施,訪問介護の見守りのもと入浴することが継続できた.
【考察】精神科OTと協業してMTDLPを活用した事が,各視点からの評価を統合して国際生活機能分類に基づいて事例の状態を捉え,強みと課題を意識して合意目標の達成に向けた支援のツールとして機能したと考えられた.また,事例と目標を共有し,段階づけて介入を行ったことにより,徐々に事例自身が退院後の生活行為について考えるよう変容し,退院後の夕飯の調理一部実施,訪問介護の見守りでの入浴を継続する一助と捉えられた.