第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

発達障害

[OI-1] 一般演題:発達障害 1

2023年11月10日(金) 13:20 〜 14:20 第5会場 (会議場B2)

[OI-1-2] 児童思春期病棟における遊びを取り入れたソーシャルスキルズトレーニングの試み

川勝 陽平, 秋山 綾子, 川口 洋子 (聖ルチア病院作業療法課)

【はじめに】
入院している児童は学校という集団の中で不適応を起こしているが,本人自身は困りごとなく生活をしており,周囲からの希望で入院に至ったケースが多い.そのため,ソーシャルスキルの向上に対する内的動機付けは低く,自己認知の歪みも影響しており自己のソーシャルスキルを正確に振り返る事が困難であり,ソーシャルスキルの獲得・般化が難しい児童が多く見られている.
【目的】
今回ソーシャルスキルズトレーニング(以下 SST)実施後,患児自身が他患児らやスタッフと楽しいと思えるような遊びを共有し,自らその関係性を維持しようと内的動機づけを高める事が,学んだソーシャルスキル(以下 標的スキル)の般化に繋がると考え,ソーシャルスキル尺度を用いて実施前後の比較を行い,その有効性を検討した.なお,本研究を行うにあたり,開示すべきCOIはなく,オプトアウト形式で同意を得て,当病院倫理委員会に申請し,承認を得ている.
【内容】
X年4月からX年7月まで週1回,1時間のプログラムを合計9回実施.当病棟でのSSTは患児らが退院後,困難に直面した際に周囲の支援を得て患児らしく生活していけるように“相談する”を最終的な目標とした.病棟生活の様子やソーシャルスキル尺度の結果を踏まえ相談する為に必要なスキルを①自己紹介②傾聴③質問の仕方④お礼が言える⑤励ます⑥お願いする⑦断る⑧提案⑨相談の9つに分け計画を立てSSTを行った.1回のセッションはステップバイステップ方式のSSTを30分行った後,30分遊びタイムを実施した.遊びタイムでは標的スキルの使用を促した他に,患児がドッジボールを行う為に「遊びに誘う」「提案する」等,患児自身が求める結果を得るために必要な対人スキルを個人SSTで練習した.宿題を提示した後は標的スキルとそのステップが記されたチャレンジカードを渡し,スキルの実施がみられた際には正のフィードバックを行い,強化を図った.
【結果】
ソーシャルスキル尺度では自己評価・他者評価ともに減少している.しかし,遊びタイムの中では「遊びに誘う」「提案する」「謝罪する」「お礼をいう」などその場に適したソーシャルスキルの遂行が見られるようになっている.また,回を重ねる毎に他患児のロールプレイに対して患児らから正のフィードバックを送ることが出来るようになってきているなど他患児の良かった部分に注目する児童がみられるようになった.その他,SST後のチャレンジカードへの取り組みも増加しており,病棟内での自発的な使用も見られるようになった.
【考察】
ソーシャルスキル尺度の評価点が減少した要因として児童思春期病棟という特殊な環境が与える影響が考えられる.病棟では適切なスキルを使用したとしても相手の児童から正のフィードバックが得る事が出来ないこともある.喧嘩や口論などの負のフィードバックが得られやすい環境下にあり,他者・自己評価の減少につながったと推測される.ただ,質問紙上での変化は見られにくかったが,スタッフや患児同士での遊びを創造し,展開していくために「遊びに誘う」「提案する」「謝罪する」「お礼を言う」などのスキルの自発的使用は増えている.それは患児らが自ら求め,学び,身に着けていったスキルであると推測できる.これはソーシャルスキルを身に着けるためのSSTと実際の場面で児童が求めるソーシャルスキルを練習する遊びタイムを実施したことによる変化と考えられる.