第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

発達障害

[OI-1] 一般演題:発達障害 1

2023年11月10日(金) 13:20 〜 14:20 第5会場 (会議場B2)

[OI-1-5] 算数障害リスク児における生得的数覚

福西 知史1, 信迫 悟志2 (1.株式会社UTケアシステム リハビリ発達支援ルームUTキッズ, 2.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター,畿央大学大学院健康科学研究科)

【はじめに】算数障害(Developmental dyscalculia: DD)は,計算や数的推論などの算数の学習に障害がみられる神経発達障害の一類型である.算数の学習に関わる生得的数覚としてサビタイジング能力や量の弁別能力があり,ヒトが発達早期から有しているとされている(Reeve et al, 2012).DD児において,この生得的数覚が障害されているか否かについては,一致した見解が得られていない(Landerl, 2009; Inglis et al, 2011; Ashkenazi et al, 2013; Decarli et al, 2020).一方で,DDを併存しやすい自閉スペクトラム症(Autism spectrum disorder: ASD),注意欠如多動症(Attention-deficit/hyperactivity disorder: ADHD),発達性協調運動症(Developmental Coordination Disorder: DCD)と生得的数覚との関連を調査した研究は国内外を通じて皆無である.
【目的】本研究では,学童期児童を対象に,算数困難と生得的数覚,そして神経発達障害特性との関係性について調査した.
【方法】Kaufman Assessment Battery for Children Second Edition (KABC-Ⅱ)の算数尺度で85点以下の児を算数障害リスク(DD risk: DDR)群,86点以上の児を定型発達(TD)群とした.対象は,7から12歳のDDR群10名と年齢をそろえたTD群10名であった.生得的数覚(サビタイジング,量の弁別)課題は,課題作成ソフト(Super lab6.0)により作成・実施した.2つの生得的数覚課題における正答率と正反応時間(RT)は,それぞれの能力の指標であった.ASD傾向の評価にはSCQ,ADHD傾向の評価にはADHD-RS,協調運動技能の評価にはDCDQを使用した.統計学的検討は,群間比較と相関分析を実施し,有意水準は5%未満とした.本研究は畿央大学研究倫理委員会(承認番号R4-02)の承認を得て実施した.
【結果】DDR群のサビタイジングRTは,TD群と比較して有意に延長し(p=0.024),DDR群のカウンティング正答率は,TD群と比較して有意に低下した(p=0.007).算数尺度とサビタイジングRT(rs=-0.663),カウンティングRT(r=-0.451),カウンティング正答率(rs=0.642)との間には有意な相関関係を認めた(全て,p<0.05).またサビタイジング・カウンティング能力を表す各変数と神経発達障害特性(ASD,ADHD,DCD)との間には有意な相関関係を認めた.一方で,群間で量の弁別課題の成績と神経発達障害特性に有意差はなく,量の弁別能力を表す変数と算数尺度,神経発達障害特性との間に有意な相関関係はなかった.
【考察】7-12歳におけるDDR児では,量の弁別能力に低下はないものの,サビタイジング能力が低下しており,サビタイジング能力と算数能力および神経発達障害特性との間には重要な関係があることが示され,2つの生得的数覚のうち,サビタイジング能力の重要性が強調された.一方で,量の弁別能力には群間差や相関関係は認めなかった.これについては,量の弁別能力に差がなくなる10歳以上のサンプルを含めたことによる可能性が示唆された.本研究で示されたいくつかの限界点を考慮し,より年齢帯を引き下げ,サンプルサイズを増加した更なる研究が必要である.