第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

発達障害

[OI-2] 一般演題:発達障害 2

2023年11月10日(金) 15:40 〜 16:50 第4会場 (会議場B5-7)

[OI-2-1] 発達障害児に対する作業療法士による児童虐待予防の類型

後藤 健太郎1,2, 中村 拓人3, 笹田 哲4 (1.三浦市立病院診療支援部 リハビリテーション科, 2.神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科 博士後期課程, 3.神奈川県立保健福祉大学, 4.神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科)

【背景・目的】
児童虐待は,公衆衛生上の問題や社会経済的な負担を大きくし,小児期の身体的損傷,心理社会的困難,学力低下の原因となる.小児期の虐待歴を持つ成人は,その歴のない成人と比較して,死亡リスクが高く,教育達成度や収入が低い傾向にある.本邦では,2000年の児童虐待の防止等に関する法律の制定を受け,発生予防,早期発見・早期対応,虐待を受けた子どもの保護・自立に向けた支援,保護者への支援等,切れ目のない支援の取組みが進められてきたが,近年,児童相談所における虐待相談対応件数は急増している.児童虐待の問題は,一般家庭において潜在的に存在する可能性が広く認識されてきているが,発達障害等の障害児の被虐待状況は,障害のない児の4〜10倍と報告する調査結果もあり,保健・医療・福祉等の関係者は,子どもを持つ全ての親を念頭に入れ,虐待防止の取組みを進める必要がある.発達障害児は作業療法の主要な対象であり,作業療法士(以下,OTR)は虐待予防に資することが期待されているが,その報告は多くない.本研究の目的は,OTRが行う児童虐待予防の類型を明らかにすることである.このことは,発達障害児を支援するOTRの虐待予防における具体的な行動指標の一つとなり得ると考える.
【方法】
研究デザインは質的記述的研究,研究参加者は,医療機関,児童発達支援事業,放課後等デイサービスのいずれかでの臨床経験が計5年以上のOTR10名を便宜的にサンプリングした.オンライン会議ツールを用いた半構造化面接によりデータ収集がなされ,レコーディング機能を用いて録画後,逐語録化された.分析は,質的記述的分析を用いた.研究代表者と質的研究の専門家で,OTRが行った児童虐待予防のエピソードを目的の観点からコード化し,その類似性や関係性を比較検討し,カテゴリ化した.なお,本研究は研究倫理審査委員会での承諾と研究参加者全員からの同意を得た上で実施された.
【結果】
虐待予防を説明する4個の大カテゴリと11個の中カテゴリが明らかになった.【虐待メカニズムの理解】では,対象児等の評価や他職種からの情報収集により虐待の存在をスクリーニングし,虐待に影響する子ども・養育者・家族の人間関係・環境の要因を理解した上で,仮説に基づく作業活動の提供という独自の視点で分析をしていた.【家族内要因の支援】では,対象児,養育者,きょうだい児,家族の日常生活に対し,そのリスクに応じた支援を提供していた.【家族外要因の支援】では,支援基盤の構築をした上で,虐待のリスクを共有することにより,施設内連携と施設外連携の促進を図っていた.【仮説検証】では,対象児や養育者,家族の日常生活を観察することで,フォローアップをしていた.
【考察】
OTRが行う児童虐待予防は,家族や多職種,他機関との信頼関係の構築等,他職種との共通点を認めた.一方で,治療的に構造化された作業(遊びやADL等)に対象児と養育者が共に従事することで家族生活の変容を促すことや,多くの人を巻き込む介入による社会的孤立の予防,高頻度な作業療法の提供による生活習慣の調整等,独自性を認めた.加えて,家族や対象児に係る社会的環境を通じた介入を図る等,家族をエコロジカルな視点で捉えている可能性が示唆された.しかし,評価時の標準化された測定ツールの使用や介入時の専門職間連携におけるOTRの役割や責任の明確化,虐待リスクのあるきょうだい児への関わり等に関する課題が浮き彫りになった.本研究の知見を作業療法の過程と対比させつつ虐待予防を行うことで,具体的で漏れのない効果的な支援につながると考えられる.