第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

発達障害

[OI-5] 一般演題:発達障害 5

2023年11月12日(日) 08:30 〜 09:30 第7会場 (会議場B3-4)

[OI-5-4] 児童発達支援事業所におけるTools of the Mindを基盤にした集団療育を通して日常場面での他児との関りが増加した一例

前田 航大1,2, 岩永 裕人2,3, 岩永 竜一郎4 (1.社会福祉法人ことの海会ふわり諫早, 2.長崎大学医歯薬学総合研究科, 3.長崎市障害福祉センター, 4.長崎大学生命医科学域)

1.はじめに 
未就学期の神経発達症児の療育では,保護者から集団生活での困り感が挙げられることが多い.療育を実施する際には個別療育に加え集団療育を検討しながら保護者や対象児のニーズに合わせた支援が求められる.特に未就学期では個別療育においてエビデンスが示されたアプローチは複数報告されているが,集団療育のアプローチは限られている.今回集団療育でのエビデンスが示されているTools of the Mindの中のmake-believe playを参考に当センターにおけるチームアプローチの結果他児とのやり取りが向上した一例を報告する.なお,今回の報告に関して,保護者の了承を得ている.
2.症例紹介
年齢:6歳 性別:女 診断:注意欠如・多動症(以下ADHD) 主訴:お友達とのやり取りが少ないので増えてほしい 療育の利用状況:当児童発達支援センター週1回(単独通所)
3.評価(主要な結果を記載)
1)WISC-Ⅳ:全検査IQ88 2)ADHDRS-Ⅳ 不注意:95%ile 多動衝動性:90%ile 3)Vineland-Ⅱ適応行動尺度*職員に実施 受容言語:9 対人関係:10 遊びと余暇:8 残りの項目は平均の範囲内 4)日常の様子:他児との活動へのモチベーションが低下しやすく,1人で遊ぶことが多い
4.介入の流れ
Tools of the MindはVygotsky理論をベースにした幼児の実行機能に焦点を当てた介入方法である.本児と取り組むmake-believe playはTools of the Mindの中核的な活動でありしっかりとした前準備をし,自分の立てた計画に基づいて進めていくごっこ遊びの活動である.週1回の単独通所の中で3~5人のメンバーと1時間30分をmake-believe playの活動とし,計10回実施した.
5.再評価
1)Vineland-Ⅱ適応行動尺度 受容言語:9→11 対人関係:10→12 遊びと余暇:8→10 2)日常の変化:活動中はお互いの役に合わせたセリフのやり取りの機会が増加し,自由遊びの時間では自分から他児とごっこ遊びを行う様子が見られた.
6.考察
今回の症例は,知能検査では平均的な能力を有していたが適応行動尺度ではコミュニケーション領域の受容言語,社会性領域の対人関係や遊びと余暇で同年齢児と比べて低い得点となっていた.その要因の一つとしてADHD症状による他児とのやり取りのモチベーションの低下から関わる頻度が少なくなったことが挙げられる.園の訪問時も集団での活動に参加する場面は見られたが他児との関りは殆ど見られなかった.Tools of the Mindは自己調整と他児との関りの動機づけを促すアプローチである(Pricilla,2021).Make-believe playでは他児と一緒にごっこ遊びのテーマを決め,役割に応じたテーマ遊びを行っていく.本児にとって活動への動機づけが得られやすく,事前に役割に沿った計画を立てる時間を設けている為やり取りへの不安も少なく関われたことが適応行動尺度の向上に繋がったと推測される.また,活動場面以外の自由遊びの時間にも本児から他児を誘う場面も見られており日常生活への般化も確認された.今回の取り組みから集団療育においてもTools of the Mindなどエビデンスの示されたアプローチ方法を取り入れながら対象児の生活がより豊かになっていくことへの支援に繋げていきたい.