第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

高齢期

[OJ-2] 一般演題:高齢期 2

2023年11月11日(土) 11:20 〜 12:30 第6会場 (会議場A2)

[OJ-2-2] 孤立と孤独感の乖離が生じている高齢者の臨床的特徴

松崎 由莉1,2, 高島 理沙3, 宮島 真貴3, 岡田 宏基3 (1.宝塚医療大学和歌山保健医療学部, 2.北海道大学大学院保健科学院, 3.北海道大学大学院保健科学研究院)

【はじめに】高齢期の孤立/孤独は健康状態に関与する主要な危険因子である(Ye Luoら, 2012).一方で客観的な孤立状態は主観的な孤独感とは必ずしも相関しない.さらに1人で過ごす時間を好む独自志向性の高い高齢者は,1人時間に対して主観的なwell-beingを高めるなど,ポジティブな側面を見いだすことも分かっている(JM Burger, 1995).しかし,孤立状態と孤独感の乖離が生じている人の特徴や,乖離が生じる背景に対する独自志向性の関与は明らかにされていない.高齢者の孤立/孤独への支援を鑑みた時に,孤立状態と孤独感が乖離している高齢者の臨床的特徴や独自志向性との関与を明らかとすることは,高齢者のメンタルヘルスの向上において肝要となる. そこで本研究は, 孤立と孤独感の乖離が生じている高齢者の臨床的特徴を明らかにすることを目的とする.
【方法】本研究の対象者は, 2022年9月20日時点で北海道A町在住の65歳以上の高齢者4,069人のうち, 要介護認定を受けている人, 3か月以上入院中の人, 住所地特例を除外した3,205人とした. 人口統計学的特性(年齢, 性別, 教育年数, 同居家族), 独自志向性(Preference for Solitude Scale), 個人にとって価値のある活動の参加状況(Self-completed Occupational Performance Index; SOPI改変版), 孤立状態(Lubben Social Network Scale 短縮版), 孤独感(Short-form UCLA 孤独感尺度第3版), 気分状態(Geriatric depression scale 15)で構成された自記式質問紙, 研究説明書を郵送し, 回答をもって同意とみなした. SOPI改変版では,1人で行う活動と人と行う活動の参加状況(作業の統制,作業バランス,遂行満足度)を尋ねた.分析では, 孤立状態と孤独感をそれぞれZスコア化し, その差を基に, 孤立状態にあるが孤独感が低い群(1群), 孤立状態にはないが孤独感が高い群(2群), 孤立状態と孤独感が相関傾向にある群(3群)の3群に分け(カットオフ値±0.75SD), 各群の臨床的特徴を一元配置分散分析し, Games-Howellを用いて多重比較を行った. 有意水準はp<0.05とした. 本研究は研究の趣旨, 倫理について説明し, 参加拒否の機会を保障した. 本研究は著者所属機関の倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】1,105名(回収率34.5%)からの回答が得られた. 対象者は男性512名(46.3%), 平均年齢は75.58歳であった. 各群で, 年齢, 性別, 教育年数, 同居家族などの基本属性に有意な差はなかった. 抑うつは, 1群<3群<2群の順で有意に低く, 2群で最も高かった. また, SOPIでは,遂行満足度, 作業バランスは, 2群・3群と比べ1群が有意に高く, 作業の統制は2群と比べ1群が有意に高かった. 1人で行う活動では,参加状況の合計点は2群・3群と比べ1群で有意に高かったが, 人と行う活動では有意差はなかった.独自志向性は各群で有意差はなかった.
【考察】孤立していなくても孤独を感じやすい高齢者は, そうでない高齢者に比べ, 抑うつ感が強かった. 一方で, 孤立していても孤独を感じづらい高齢者は, 抑うつ感が最も低く, 作業の参加状況が良好で, 特に1人時間を充実して過ごしていた.本研究の結果,1人時間を好む独自志向性の高さは,孤立状態と孤独感の乖離と関連しなかったが,1人で行う活動の参加状況は重要な因子であることが示された.1人で行う活動は孤立しているように見える. しかし,価値のある1人で行う作業を有して,その参加状況が良好であれば,孤独感も抑うつ感も低くかった.地域在住高齢者の孤立/孤独予防の支援においては,画一的に孤立状態を解消するのではなく,高齢者が1人で過ごす時間にどのような作業をどのように行っているのか評価することが重要であることが示唆された.