第57回日本作業療法学会

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一般演題

高齢期

[OJ-2] 一般演題:高齢期 2

Sat. Nov 11, 2023 11:20 AM - 12:30 PM 第6会場 (会議場A2)

[OJ-2-5] 地域在住高齢者における心の理論と認知機能との関連

ゴアンヒ ハン1,2, 丸田 道雄2, 釜崎 大志郎3,4, 下木原 俊4, 田平 隆行5 (1.国際医療福祉大学福岡保健医療学部作業療法学科, 2.鹿児島大学医学部客員研究員, 3.西九州大学リハビリテーション学部リハビリテーション学科, 4.鹿児島大学大学院保健学研究科博士後期課程, 5.鹿児島大学医学部保健学科作業療法学専攻)

【序論】社会的認知の一つである心の理論(ToM)は,他者の思いや言動の意図を推測する能力であり,社会生活において欠かせない重要な機能を担っている(Beer et al., 2006).2013年に改訂された精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)では,認知症の診断基準として,社会的認知の項目(ToMなど)が新たに追加された.しかし,認知症者および高齢者用の社会的認知の評価は未だに定まっていない.さらに,高齢者を対象にしたToMと記憶,注意,実行機能および情報処理能力など,様々な認知機能との関連を調べた研究は不十分であり,認知症者および高齢者用のToM評価バッテリーの開発のためにも研究の蓄積が必要な状況である.
【目的】本研究の目的は,地域在住高齢者を対象に,社会的認知の一つであるToMと記憶や注意,実行機能および情報処理能力など,様々な認知機能との関連を明らかにすることである.
【方法】対象は,2017年の垂水コホート研究に参加した地域在住高齢者380名の中から,認知症や脳卒中およびデータ欠損者を除外し,340人(75.1±6.5歳,女性256人)を解析の対象とした.ToMの1次誤信念課題(ToM-1)は,古典的なサリーとアン課題(Baron-Cohen et al., 1985)を4コマの絵で構成し実施した.ToMの2次誤信念課題(ToM-2)は,サリーとアン課題の[場面③]に「アンが宝物を移す様子をサリーが窓から見ている」という内容を加えたものを独自に作成し実施した.認知機能評価は,National Center for Geriatrics and Gerontology Functional Assessment Tool(NCGG-FAT)を用いて,単語記憶の即時再生(WM-1),遅延再生(WM-2),Trail Making Test part Aとpart B(TMT-AとTMT-B),Symbol Digit Substitution Task(SDST)を実施した.解析は,単変量解析として,ToM-1を2群(正解群と不正解群)に分け,2群間の年齢や性別,教育年数,TMT-A,TMT-B,WM-1,WM-2,SDSTについて,カイ二乗検定とMann-Whitney U検定を使用して比較検討を行った.その後,多変量解析として,年齢,性別,教育年数は共変量,単変量解析で有意な差を認めた認知機能評価を独立変数,ToM-1(正解群:1,不正解群:0)を従属変数としてロジスティック回帰分析を行った.ToM-2に関しても同様な方法で解析を行った.統計解析はSPSS ver.29.0を用い,有意水準は5%未満とした.本研究は,鹿児島大学医学部倫理審査の承認(疫170103)を得て実施した.
【結果】ToM-1の正解群と不正解群との比較では,年齢,教育年数,TMT-A,TMT-B,WM-1,WM-2,SDSTで有意な差を認めた(p<0.05).ToM-2の正解群と不正解群との比較においても,年齢,教育年数,TMT-A,TMT-B,WM-1,WM-2,SDSTで有意な差を認めた(p<0.05).ロジスティック回帰分析の結果,ToM-1はTMT-Bと関連がみられ(オッズ比:0.99,95%信頼区間:0.98-0.99,p<0.001),ToM-2はSDST(オッズ比:1.04,95%信頼区間:1.02-1.07,p<0.001)と関連がみられた.
【考察】本研究の結果より,1人の他者の思いを推測する能力は,状況に応じて注意を別の対象に切り換える認知機能(注意の転換)や,複数のことに注意を配る認知機能(注意の配分)と関連が示された.また,2人の思いを推測する能力は,注意の転換・配分より高次な実行機能および情報処理能力との関連がみられ,ToMの内容によって影響を与える認知機能は異なり,ToMが高次になるほど,より上位の認知機能が必要である可能性が示唆された.本研究で得られた知見は,発展途上段階である社会的認知のリハビリテーションや,認知症者および高齢者用のToM評価バッテリー開発にも有用な資料として活用できると考えられる.