第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

高齢期

[OJ-3] 一般演題:高齢期 3

2023年11月11日(土) 14:50 〜 16:00 第2会場 (会議場A1)

[OJ-3-3] 主観的記憶障害を有する高齢者の服薬管理の特徴

中原 伶奈1,2, 日高 雄磨2, 赤崎 義彦3, 大勝 秀樹2, 田平 隆行4 (1.鹿児島大学大学院保健学研究科 博士前期課程, 2.医療法人三州会 大勝病院, 3.垂水市立医療センター 垂水中央病院, 4.鹿児島大学医学部保健学科作業療法学専攻)

【はじめに】
認知機能低下によりIADL,特に服薬管理や金銭管理が早期に障害されることが知られている.服薬管理能力の低下は,早期の認知機能障害を特定するために有用な指標となることが示唆されている(池田 他,2017).高齢化により複数の疾患を併せ持つようになると,薬剤種類数も増加する.明らかな認知機能低下は認めずとも,主観的に認知機能低下を感じている高齢者の具体的な服薬管理状況を知ることは,早期の服薬管理支援の重要な手がかりとなる.しかし,4年後の認知症へのコンバートが2.3倍(Waldorff FB et al,2012)とされる主観的記憶障害(Subjective Memory Complaints;SMC)の段階での服薬管理状況を調べた報告は皆無である.そこで,本研究ではSMCを有する地域在住高齢者の服薬管理の特徴を明らかにし,心身機能や環境との関連を調べることを目的とした.
【方法】
対象は2019年度における地域コホート研究(垂水研究)に参加した65歳以上の高齢者690名であった.既往に認知症の診断がある者,客観的な認知機能低下(Mini-Cog2点以下)が認められる者,データ欠損者を除外し,599名(平均年齢73.9±6.4歳,女性64.6%)を解析対象とした.SMCに関しては,Tsutsumimotoら(2017)が開発した,主観的記憶に関する4つの質問のうち1項目以上該当した場合をSMCがあると定義した.服薬管理については,樋口ら(2018)の「日頃の服薬生活」,(飲み忘れ,服薬中断,飲み間違い,残薬などの)13項目に対し,ある・なしの2件法で回答を求めた.SMCの有無で2群に分け,どの服薬項目と関連があるかを,カテゴリ変数はχ²検定,連続変数は対応のないt検定を用いて解析を行った.さらに,従属変数をSMC,独立変数を服薬項目とし,人口統計学的変数と副次評価項目(居住環境,服薬自己管理,歩行速度,老年期うつ評価尺度など)を共変量として調整した,二項ロジスティック回帰分析を行った.統計解析はIBM SPSS Statistics ver.28を用い,有意水準は5%未満とした.本研究は,鹿児島大学疫学研究等倫理委員会の承認(170351疫)と参加者からの同意を得て実施した.
【結果】
本研究における地域在住高齢者のうち,SMC(+)群が380名(平均年齢74.3±6.5歳,女性65.3%),SMC(-)群が219名(平均年齢73.3±6.2歳,女性63.5%)であった.SMC(+)群において,服薬自己管理は357名(93.9%),他者管理は23名(6.1%)であった.SMC(+)群が,SMC(-)群と比較し,「残薬あり」の割合が有意に多かった(p=0.002).共変量を調整した後も,SMC高齢者と「残薬あり」において有意な関連を認めた(OR:1.72,95%CI:1.13-2.61,p =0.012).
【考察】
本研究において,SMCを有する地域在住高齢者と残薬との関連性が明らかになった.服薬管理は日付・時間・場所の見当識(Gwanghee H et al,2020),遂行機能などの認知機能が関係しているが,「食事の後に薬を飲む」といった展望記憶も要する難易度の高い複雑なIADLである.患者が医師の処方した薬を適切に服薬管理することは,薬物治療を行う上で重要なことである(坪井 他,2012).服薬後の薬の包装をカレンダーに入れるなど,服薬後の行動と結びつけて習慣化する工夫が必要かもしれない.SMCの段階から,残薬の有無や原因を把握し対策することは,認知機能低下が進行しても服薬管理の介護負担軽減につながり,残薬問題解決の一助になる可能性がある.