第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

高齢期

[OJ-3] 一般演題:高齢期 3

2023年11月11日(土) 14:50 〜 16:00 第2会場 (会議場A1)

[OJ-3-6] 地域高齢者における作業的挑戦の高低状態に関連する因子の検討

迫田 裕司, 鳥井 和美, 東野 遥佳 (田名老人保健施設 光生コメディカル部 リハビリテーション科)

【背景】
 高齢者の作業参加や活動などの作業行動を包括的に分析する方法として人間作業モデルがある.人間作業モデルにおいて作業参加は作業適応に必要な要因であり,それは「意志」「遂行能力」「習慣化」の個人的特性と「環境」の4つの構成要素が互いに関連することで達成するとされている.特に,作業参加を促進する特性としては作業的挑戦感情がある.これは個人が何等かの作業活動に適応していく過程で生ずる感情で,この感情の促進が高齢者の抑うつ感を軽減し,健康関連QOLと作業参加の満足度が向上する可能性があるとしている.つまり高齢者の参加促進には作業的挑戦感情と個人的特性に着目した介入が重要だと思われる.しかし,作業的挑戦感情と個人的特性がどのように関連をしているかは明らかにはなっていない.そこで,高齢者の作業的挑戦感情と個人的特性との関連性を分析し,高齢者の社会参加を促進する作業療法介入を立案することを目的とした予備的研究を行うこととした.
【方法】
 対象は,A通所リハビリテーション事業所を調査期間 (令和4年1月1日~9月30日) 中利用し,臨床評価業務として調査可能な者とした.基本属性として性別,年齢,介護度,最終学歴,改訂版長谷川式認知機能検査 (以下HDS-R) の情報を取得した.作業特性として作業的挑戦尺度 (52点満点, 4件法),心理特性として知的好奇心尺度得点 (60点満点, 5件法),遂行能力としてBarthel Index得点 (10項目, 100点満点),遂行状況として興味関心チェックシート「している」項目を聴取した.統計処理は,作業的挑戦尺度を目的変数,知的好奇心尺度・Barthel Index得点・興味関心チェックシート「している」項目数を説明変数として二項ロジスティック回帰分析 (強制投入) を行った.目的変数は諸星らが算出した作業的挑戦尺度のカットオフ値33/34点を基準に,34点以上を作業的挑戦高位群,33点以下を作業的挑戦低位群という名義尺度データに変換した.多重共線性については,Spearman順位相関係数が0.80以上,また分散拡大係数が10以下であることとした.解析ソフトはR ver.4.2.1を使用し,有意水準は5%とした.本研究は北里大学医療衛生学部倫理委員会の許可を受け実施した (承認番号2021-36).
【結果】
 調査期間中の施設登録者数は100名,全員に対して適格性評価を行い72名が評価対象となった (男性40名, 女性32名).欠損値はなく72名全員が解析対象となった.対象者は年齢78.57±9.1歳(平均±SD, 以下同),HDS-R得点20.18±9.5,作業的挑戦尺度35.57±7.9点, 知的好奇心尺度得点38.53±10.5点,Barthel Index得点76.40±20.0,興味関心チェックシート「している」項目数9.43±5.0であった.また,作業的挑戦高位群は41名,作業的挑戦低位群は31名となった.説明変数内の最大分散拡大係数値は1.30,最大相関係数は0.48であったため,多重共線性はないと判断した.結果,得られたオッズ比は,知的好奇心尺度にて1.235(95%信頼区間 =1.118–1.364, p<0.001),Barthel Indexにて1.013(95%信頼区間 =0.978–1.050, p=0.452),興味関心チェックシート「している」項目数にて0.946(95%信頼区間 =0.829–1.081, p=0.421)であった.
【考察・結論】
 本研究の結果, 作業的挑戦傾向に影響を与える要因に知的好奇心が関連していることが示唆された.知的好奇心の促進には批判的思考が重要である.作業療法において地域高齢者の社会参加を促す知的好奇心を育むためには,批判的思考を活性化する認知的アプローチを活用し,作業的挑戦傾向を促進する方法が考えられる.特に,個人の興味や関心がある事柄などに対するアプローチは,先行研究の結果からも高齢者の主体性を引き出せることから効果的と推察する.