第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-1] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む) 1

2023年11月10日(金) 12:10 〜 13:10 第6会場 (会議場A2)

[OK-1-4] Catherine Bergego Scaleで評価される半側空間無視に影響を与える因子の検討

中井 俊輔1,2, 磯野 理3, 相馬 法子1, 田中 寛之2 (1.京都民医連あすかい病院リハビリテーション部, 2.大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科, 3.京都民医連あすかい病院神経内科)

【背景】Catherine Bergego Scale(CBS)は半側空間無視(USN)患者の日常生活活動(ADL)障害の評価法として知られている.USN患者のADLはCBSで評価できる内容以外に運動麻痺や感覚障害,認知機能障害など様々な要因も加わることが臨床上よく経験される.つまり,USN患者のADL障害に対する介入は,無視そのものに加えてその他の要因をも明らかにしたうえで行われる必要がある.しかし,これまでCBS合計得点や下位項目がどのような臨床的変数の影響を受けるのかは筆者らの知る限り調査されていない.本研究の目的は,CBS合計得点や下位項目がUSN以外にどのような臨床的変数の影響を受けるか明らかにすることである.
【方法】対象者・期間:2019年10月〜2023年1月に当院の回復期病棟に入院した,初発の右半球損傷かつCBSにて半側空間無視を認めた者とした. 用いた評価:Fugl-Meyer Assessment(FMA)の上肢(UE)・下肢(LE)・感覚(S)項目,Mini-Mental State Examination(MMSE),Frontal Assessment Battery(FAB),BIT行動性無視検査日本版(BIT)の通常検査,@ATTENTION(Creact社,東京)のL/Rratio・RTmeanを調査した.分析方法:CBSの合計得点・下位項目それぞれと神経学的・神経心理学的検査の結果をSpearman順位相関係数を用いて分析した.CBSの合計得点・下位項目それぞれを従属変数として,項目と有意な相関を認めた変数を独立変数とした重回帰分析(変数減少法)を実施した.変数選択の前提として多重共線性を検証するために, 独立変数同士の相関係数>0.8,Variance Inflation Factor(VIF)>10,条件指数>15以上の変数は除外した.全分析において有意水準は5%,統計解析はSPSS ver.25.0を用いた.
【倫理的配慮】本研究は京都民医連あすかい病院(2022-113003),大阪公立大学大学院(2022-222)の研究倫理審査の承認を得ている.
【結果】対象者は40例(男23/女17),年齢:70.9±11歳,FMA-UE:38.0±22点,FMA-LE:20.5±10点,FMA-S:12.2±8点,MMSE:22.7±5点,FAB:11.6±4点,BIT:107.7±39点,CBS:9.5±7点,L/Rratio:1.3±0.3点,RTmean:1.8±1点であった.重回帰分析の結果,「CBS合計得点」に関連する指標はFMA-UE(β=-.305, p<.03),BIT通常検査(β=-.431, p<.01),L/Rratio(β=.376, p<.00)で決定係数(調整済みR2)0.840であった.下位項目では「整容」はFMA-S(β=-.326, p<.07),FAB(β=-.270, p<.09),BIT(β=-.443, p<.03)で決定係数は0.774,「更衣」はBIT(β=-.659, p<.00),決定係数0.397,「食事」はFMA-UE(β=.-690, p<.00),RTmean(β=.488, p<.00),決定係数0.656,「食後」はFMA-S(β=-.724, p<.00),RTmean(β=.576, p<.00),決定係数0.880,「視線」はFMA-S(β=-.399, p<.01),FAB(β=-.595, p<.00),決定係数0.723,「所属感」はFMA-S(β=-.927, p<.00),決定係数0.850,「聴覚」はFMA-S(β=-.415, p<.05),L/Rratio(β=.451, p<.0),決定係数0.513,「移動」はBIT(β=-.621, p<.00),決定係数0.344,「誘導」はBIT(β=-.650, p<.00),決定係数0.385,「所有物」はL/Rratio(β=.481, p<.01),FMA-UE(β=-.457, p<.02),決定係数0.573であった.
【考察】CBSの合計得点および下位項目で共通している変数としてはBIT,L/Rratioの無視そのものを表す指標であったが,下位項目によっては感覚障害,前頭葉機能障害を含む全般的な注意障害,上肢運動麻痺も含まれていた.本研究の結果から半側空間無視を呈する患者のADLは,無視そのもの以外の要因も複数関連していることが明らかになった.