第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-2] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む) 2

2023年11月11日(土) 12:30 〜 13:30 第7会場 (会議場B3-4)

[OK-2-4] 当院における脳卒中後の自動車運転再開支援システム

納富 亮典1, 園田 琴乃1, 中野 一博1, 武道 孝政2, 三浦 聖史3 (1.社会医療法人財団白十字会白十字リハビリテーション病院リハビリテーション部, 2.社会医療法人財団白十字会白十字病院リハビリテーション部, 3.社会医療法人財団白十字会白十字リハビリテーション病院リハビリテーション科)

【序論】近年,高齢ドライバーの増加や疾病に関連した重大事故に伴う道路交通法改正などの潮流の中で,OTが自動車運転評価や再開支援を行う機会が増加している(運転と作業療法委員会.2021).脳卒中後の運転再開に関して,脳卒中後6ヶ月で31%が運転再開した(Elyse L,et al.2013)との報告があるが, 日本の運転再開率について悉皆性のある報告はない.当院においては,再開可能性がある患者に適切な時期で支援を行うため,医師,ST,OTで作成した自動車運転再開支援システム(以下,DRSS)を活用している.今回,DRSSの概要や,外来リハビリテーション(以下,外来リハ)で運転再開支援を実施し,復職に至った脳出血の1例について報告する.
【目的】当院DRSSの共有や,脳卒中長期経過後に運転再開した症例の報告を通し,地域格差がある運転再開支援の広まりに寄与することである.
【倫理/COI】発表に際し,症例の同意,倫理委員会承認を得た.COI関係企業はない.
【当院DRSS】
①医師の処方 ②運転情報収集表による患者や家族への聴取
③神経心理学的検査 ④脳卒中ドライバーのスクリーニング評価SDSA
⑤簡易ドライブシミュレーターSiDS評価 ⑥停車車両を用いた動作評価
⑦指定自動車学校の実車教習 ⑧公安委員会提出用診断書の作成 
⑨免許試験場での臨時適正相談
【症例】50代男性.診断名は右前頭葉脳皮質下出血.X+14日に当院回復期入院.X+193日に回復期退院.退院時はDRSS③不合格で運転不可の状況.痙縮管理や復職,運転再開支援を目的にX+198日から外来リハ開始.妻と同居.職業は学生寮の料理長.主訴は楽に生活できるようになりたい,復職,自動車運転再開であった.外来リハPT,OT処方,2日/週介入を開始.期限は回復期退院後3ヶ月までとなっていた.
【経過】開始時の移動設定は,屋外長距離はシニアカー監視,屋内は伝い歩き修正自立,公共交通機関利用等はノルディックポール修正自立の設定であった. しかしノルディックポールの10m歩行試験は70秒と速度遅延を認め,通勤の困難さを認めた.妻は仕事があり日中不在で,本症例が家で何もせず過ごしているので心配との声が聞かれた.PTでは未使用となっていたAFO装着下の歩行訓練,OTでは自宅内の役割提供,IADL訓練,自主練習指導を実施.経過中,③再評価で再開目安値以上に改善を認め,医師に相談しDRSSを進めた.④合格,⑤境界値となったが,⑦へ移行.実車教習で「安全運転可能」の判定となり,医師の診断書作成となった.自動車運転再開となり,通勤の問題が解消し,会社とお試し出勤が調整できたX+283日で外来リハ終了となった.終了後3ヶ月後の電話聴取では,運転再開後の事故や問題は生じず,通勤や買い物が可能となっており,自宅でも調理,掃除を率先して行えている状況であった.お試し出勤も終了し,デスクワークや調理に関するスタッフ指導に業務内容を変更しての復職を予定している状況であった.
【考察】歩行速度と復職に関して,0.93m/sを強い復職予測因子(Hannah LJ,et al.2019)とする報告があり,本症例はこの数値を下回っていた.また,身体障害者の離職理由の9.7%は「通勤の困難さ」とされ (平成25年度障害者雇用実態調査.厚生労働省) ,本症例においても通勤手法の再検討が復職に向けて重要となっていた.自動車運転を再開した患者は,非再開者と比較しReintegration to Normal Living Indexが有意に高い(Finestone HM,et al.2010)との報告がある.これは運転の有無が地域社会への復帰に強く関与していることを示唆しており,本症例においても運転の再開が外出機会の増加や,通勤手段獲得による復職に繋がり,症例の活動と参加の拡大に寄与したと考えた.
【結語】運転再開に関する適切な支援システムは社会参加の促進に重要である.