第57回日本作業療法学会

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一般演題

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[ON-2] 一般演題:地域 2

2023年11月10日(金) 13:10 〜 14:20 第2会場 (会議場A1)

[ON-2-3] 5年ぶりに卓球がしたい―TVゲームを通して活動範囲の拡大が見られた症例―


関野 航嘉, 高野 翔次 (社会医療法人熊谷総合病院医療技術部リハビリテーション科)

【はじめに】今回,運動よりも趣味活動に重きを置く症例に対し,その趣味活動を通した介入を行うことで活動時間が向上し長年中断していた卓球に復帰することができたため報告する.本発表に際して症例に説明を行い,口頭及び書面で同意を得ている.
【事例紹介】卓球や読書,ゲームなどの趣味を楽しんでいた70歳代女性.長女と二人暮らしで家事を主に担当.X-11年頃から両膝痛が出現しX-5年に卓球を中断.X-2年に左人工膝関節置換術施行し,X年Y-3月に右人工膝関節置換術施行.退院後1ヶ月間外来リハビリテーションを経て,Y月より訪問リハビリテーションとして作業療法,理学療法(各1回/週)開始となった.
【作業療法評価】初回面接にてカナダ作業遂行測定(Canadian Occupational Performance Measure 以下,COPM)を行った際,症例より「卓球の再開」(遂行度1満足度1),「二人分の食事を楽に作る」(遂行度2満足度1)が挙がった.卓球に関しては「5年も行ってないから不安ね.家のことができるようになったらやってみたいな.」と発言があった.症例は独歩自立しており身辺動作も自立.しかし,調理の際10分程度で両大腿外側に疲労感が出現し,その度に30分の休憩を挟むことをもどかしく感じていた.生活スケジュールを聴取すると掃除,洗濯,調理,身辺動作以外の時間は座って読書やゲームをして過ごしていた.座位での余暇時間が多かったため運動の実施状況について尋ねると「散歩とか筋トレの時間は趣味に充てたいの.やらなくちゃいけないのは分かるんだけどね.」と運動の必要性は感じていたが趣味活動の価値を重んじていた.本人と相談し目標を,疲労感なく夕食づくりができる(3M),卓球に復帰できる(6M)とした.
【介入経過】立位耐久性向上,趣味活動の再開に向け,Nintendo Switch (任天堂社)を用いたテニスゲーム(コントローラーをラケットに見立て,立位で行うもの)を提案した.元々ゲームが好きな症例は好反応を示し,意欲的に取り組むことができた.Y+1月,20分立位保持可能となり,図書館やスーパーへ行くなど活動の範囲が広がった.調理に関して,食材の下処理を事前に行い娘の帰宅に合わせて調理を再開する,というように工程を分割して行うことで疲労感軽減を図った.調理目標を早期達成することが見込めると考え,卓球復帰に向けた練習を開始.卓球シューズを履きステップ練習を行ったが3分で両大腿に疲労感が出現した.症例からは「まだ疲れるけど,卓球は1ヶ月後に再開したいね.」と前向きな発言が聞かれた.Y+2月,自主練習としてテニスゲームの起動の仕方や設定などを指導した.卓球シューズを履いた状態での立位バランス練習は10分可能となり,卓球会場への道のりや駐車場の有無の確認を行った.Y+3月,趣味である卓球へ部分的に復帰することが可能となった.【結果】立位保持時間は30分可能となり,図書館やスーパーへ行くなど活動時間や範囲が向上した.調理に関しては工程を分割することで疲労感なく可能となった.また,5年前から中断していた卓球に部分的に(10分×2セット)復帰することができ,本人からは「またできるなんて思ってもなかったよ.」と発言があった.COPMは「卓球の再開」(遂行度7満足度9),「二人分の食事を楽に作る」(遂行度8満足度9)とどちらも向上.
【考察】本症例は運動の必要性は理解しているが趣味の価値観を重んじており,自主練習や外出の優先順位が低く目標達成に向けた本人への指導の行い方が課題であった.そこで,本人が好きなゲームを通して立位耐久性,活動意欲,活動時間が向上するような仕組みづくりを行えたことで卓球を再開することができたと考える.