第57回日本作業療法学会

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一般演題

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[ON-2] 一般演題:地域 2

2023年11月10日(金) 13:10 〜 14:20 第2会場 (会議場A1)

[ON-2-5] 働き世代にある日本の人々が親の介護者になる移行の特徴

鈴木 洋介1,3, 並木 千裕2, ペイター ボンジェ3 (1.さわやか訪問看護ステーション, 2.聖路加国際病院リハビリ課, 3.東京都立大学大学院人間健康科学研究科 作業療法科学域)

【はじめに】
「親のケアに携わる介護者」とは,こころやからだに不調のある親の「介護」「看病」「世話」「気づかい」等,ケアの必要な親を無償でケアする人々のことである.親のケアに携わる働き世代の多くは,仕事,家事,育児等の多様な役割を担っており,介護疲れによる虐待等,社会的問題に対しての支援が必要とされている.先行研究においては,親のケアに携わる働き世代の人々がどのように介護者になっていくのかという移行の経験に焦点を当てた研究は見当たらなかった.移行理論において,移行とは個人の環境における危機的な出来事や,変化によって誘発されるとされている.移行中の人々は,健康やwell-beingに対するリスクの影響を受けやすく,例として,家族介護が挙げられている.また,移行理論を用いることで,移行中の人々の複雑な移行経験を理解でき,健全的な移行を促進することができると言われている.以上より,OTが社会的な問題と関連する親のケアに携わる働き世代の人々の移行を,作業の視点で理解し,移行理論を用いて,「介護者になる移行」の作業療法支援を検討できるのではないかと考えた.
【目的と意義】
目的:親のケアに携わる働き世代が親の介護者になっていく移行の特徴を明らかにすること.
意義:介護者になっていく移行を促進するための作業療法支援のあり方を議論できること.
【方法】
働き世代(20代後半〜50代)にある12名を目的的サンプリングにて募集,倫理的配慮の説明を行い,同意を得た (東京都立大研究倫理委員会承認).その後,6名(女性4名,男性2名)ずつ2グループにわけた.各グループ,フォーカスグループインタビュー(以下,FGI)120分×2回と個別インタビュー(以下,PI)60分×1回を行った.FGIでは,1回目は自己紹介等を行い,2回目は写真誘発法を用いて,「親のケアに携わる道のり」というテーマで,1〜3枚の象徴する写真と共に経験を共有した.PIでは,FGの内容の振り返りやFGIでは語りづらかった経験を共有した.経験の語りを逐語録化した後,Smithらの提唱する解釈学的現象学的分析(IPA)に沿って分析し,Meleisの移行理論の枠組みを使い,再解釈した.FGIで語られた内容をPIで確認をする,メンバーチェッキングを行うことで信憑性の確保に努めた.
【結果】
7つのテーマ,(1)親のケアに直面し,奮闘する,(2)それぞれの役割の意味を見出そうとして葛藤する,(3)コミュニティや社会の態度に打ちのめされる,(4)コミュニティや社会の理解者に救われる(5)私なりの意味を見出し,覚悟を決めて前へ進んだり立ち止まったりする,(6)様々な役割を果たすスキルを身につけていこうとする,(7)様々な役割に自信を持ち,私の暮らしに組み込もうとする,と共にテーマを象徴する写真が抽出された.
【考察】
時間や状況の変化を示す移行の矢印は,双方向的であり,単純な一方向的な流れで完了するものではなかった.また,参加者は,親のケア状況の変化と共に,出産,離婚,転職などの変化が連続したり,複数が同時に現れたりする経験をしていた.これらのことから,親の介護者になっていく移行は複雑なものであることをOTは認識し,介護者としての役割に留まらず,担っている様々な役割も含め,包括的に把握し,理解していくことが必要である.また,親のケアに携わる作業を,「家族の作業」として捉えることで,親の介護者になる移行の複雑さを理解する一助になると考えられた.作業療法支援においては,親のケアを経験する社会の人々に対して,OTは偏見等により移行を阻害せず,当事者中心の視点に立ち,移行を促進する「理解者」になる必要がある.