第57回日本作業療法学会

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[ON-6] 一般演題:地域 6

2023年11月11日(土) 12:20 〜 13:30 第2会場 (会議場A1)

[ON-6-3] 仁淀川町のハツラッツはフレイル状態であった高齢者の免許返納意識を変えた!

有光 一樹1, 金久 雅史2, 杉本 徹3, 桂 雅俊4, 岡野 真也5 (1.高知リハビリテーション専門職大学, 2.高知リハビリテーション学院, 3.リハビリテーション病院すこやかな杜, 4.土佐リハビリテーションカレッジ, 5.須崎くろしお病院)

【はじめに】
 免許返納者の平均年齢は76.96歳とのデータがある.首都圏はインフラ整備も進み返納できる環境にあるが,中山間地域は人口減少に伴い,利用客や担い手の減少から整備も不十分である.またその地域ほど高齢化率が高く,免許返納は難渋の課題となっている.
 今回,免許を返納しようとする中山間地域の高齢者について,地域住民が主体となって取り組む短期集中型総合支援プログラム(以下,ハツラッツ)が与えた影響について経過を踏まえて報告する.今回の発表について本人から同意を得ている.
【ハツラッツとは】
  ハツラッツは高齢化率56.1%の高知県仁淀川町で実践されている住民主体の取り組みであり,フレイル状態の地域住民に対して週2回半日型で,3か月間フレイル予防が実施される.実践後は支援者となり持続的な社会参加の仕組みも確立されていることが特徴の一つである.
【ハツラッツ利用者紹介】
 90代男性.退職後,自宅で妻を介護し,施設入所を契機に独居生活.セルフケア自立であったが,心不全や両側OA,腰部脊柱管狭窄症の影響から徐々に身体機能低下の状態であったため役場からハツラッツへの勧誘もされていた.今回,交通事故や交通違反を起こしていないが,年齢や高齢者運転についてのネガティブなマスコミ情報から免許返納を考えた結果,今後の生活を考え自宅から500m程離れたスーパーまで歩いて行けることを目的として,ハツラッツに参加された.
 訪問調査では,日常生活がとても疲れるため,日中殆ど座って過ごしたり,数百メートルの移動も自家用車を使用.外出機会は外来受診と買い物程度であり,社会参加も殆どなかった.屋外歩行は杖を持参しており,不安定であった.BMIが28.7,柔軟性も低いことから床に座れない,立ち上がれない,靴下を履くのに時間がかかる状態であった.
 開始時の体力測定結果は5m歩行3.79秒,TUG9.72秒,片脚立位右軸3.5秒左軸4.13秒,CS-30は22回であり,訪問調査と勘案してフレイル状態に陥っていると判断した.
 中間時の様子について,利用者は,フレイル予防に役立つ講話も真面目に傾聴し,自主トレーニングも欠かさず実施するなど精力的に参加されていた.徐々に支援者との会話も増えていた.訪問調査では靴下が実用的に履け,屋外歩行もスーパー近くまで傘をさして可能となり,徐々に前向きな発言が多く聞かれるようになった.
【結果】
 ハツラッツ開始から3か月後には,自宅から500m離れたスーパーまで可能となった.表情も明るく,支援者の声かけにも笑顔で返答する様子が増えてきた.最終時の体力測定結果は5m歩行2.46秒,TUG7.89秒,片脚立位右軸5.52秒左軸6.6秒,CS-30は27回と向上した.本人より足が軽くなり,歩くスピードが増えたと笑顔で返答した後,「やっぱり免許は返納しない!90代でも返納していない方もいるし,交通事故もしていない.何より運転にも自信が出てきた.」との発言を認めた.
【考察】
 今回,フレイル状態の93歳の高齢者は,ハツラッツ参加によって単純な身体機能向上でなく,その運動が生活機能を向上させたこと,また本人の頑張りを支援者が言葉で支えたことから交流の輪が広がり積極的な社会参加につながったことがフレイル脱却に至った要因と考えた.その結果,年齢などによるネガティブな思考で免許返納を検討したわけでなく,ハツラッツでの成功体験から肯定的な思考で自身の能力を判断できたことが免許返納に対する意識変革に至ったと感じた.