第57回日本作業療法学会

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一般演題

地域

[ON-9] 一般演題:地域 9

2023年11月12日(日) 09:40 〜 10:40 第4会場 (会議場B5-7)

[ON-9-5] 同一課における同僚のメンタルヘルス不調に対する傷病欠勤の影響

小井 美波1, 沓名 一朗1, 白戸 晶2, 稲葉 瑛美1, 星野 藍子1 (1.名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学専攻, 2.社会医療法人居仁会 総合心療センターひなが)

【はじめに】
 現在,多くの先進国において,メンタルヘルス不調は傷病欠勤や長期的な労働障害の主な原因の一つである.そのため,メンタルヘルス不調は社会に経済的な不利益をもたらすと指摘されている.本邦ではその一次予防を目的に,厚生労働省が平成27年度より職業性ストレス簡易調査票(以下, BJSQ)を利用してストレスチェック制度を開始した.BJSQを用いた先行研究(Sugawara, 2013など)では,高ストレスに至る個人の個人要因と職業性ストレス・傷病欠勤との関連を調査したものが多い.ある個人が傷病欠勤により職場を離れた場合,仕事量・残業の増加や職場の配置転換などにより,一緒に働いている健康な労働者(以下,同僚)に影響を与える可能性があると考えられる.しかし,これらの関連を調査した研究は少ない.傷病欠勤が健康な同僚に及ぼす影響を調査することにより,職場におけるメンタルヘルス不調の予防的介入を促進できると考える.
【目的】
 傷病欠勤が健康な同僚の職業性ストレス(領域A:仕事のストレス要因,領域B:ストレス反応,領域C:修飾要因)に及ぼす影響を明らかにすること.
【方法】
 発表者が所属する機関の生命倫理委員会において承認された既存研究のデータを二次利用し,後ろ向きコホート研究とした.本研究では,既存研究で収集された建設系1企業に所属する正規雇用社員の4年間のBJSQを使用した.始めに,本研究の条件に当てはまる対象者を抽出し,特定期間内の傷病欠勤者と同じ課に所属する群(以下, 傷病欠勤者あり群)と異なる課に所属する群(以下,傷病欠勤者なし群)に分けた.抽出した全ての対象者について,BJSQの領域A, B, Cそれぞれについて1年間ずつの変化率を計算した.次に,そのデータをもとに,線形混合モデルを用いて該当期間内のBJSQの変化の差を2群比較した.加えて,傷病欠勤者あり群について共分散構造分析を実施し,対象者の職業性ストレス悪化につながる因子の関係性を調査した.
【結果】
 該当期間内の傷病欠勤者は8名であった.また,抽出の結果得られた対象者は,傷病欠勤者あり群が74名,傷病欠勤者なし群が191名であった.これら2群について,線形混合モデルを用いて解析した結果,領域Cでは,時間や群による主効果及び交互作用に有意差がみられた.このことから,傷病欠勤者あり群の職業性ストレスがより悪化していることが示された.また,傷病欠勤者あり群を対象とした共分散構造分析では,十分に適合性の高い修正モデルが得られた(x2=12.6, p=0.556, GFI=0.962).このモデルでは,ストレス反応と高ストレス者判定の直接的な関係性が得られた.加えて,上司・同僚からのサポート,心理的仕事負担(量),職場の対人関係ストレスは,ストレス反応を介して対象者の職業性ストレス悪化に関連していた.
【考察】
 線形混合モデルの結果,傷病欠勤者あり群では,社会支援などの項目を含む領域Cの職業性ストレスがより悪化していた.これは,社会的支援が労働者の職業性ストレスに影響を与えるという複数の先行研究(Aziz, 2021など)の結果と一致していた.一方,長期傷病欠勤が同僚の職業性ストレスに与える影響について調査した先行研究(Fukuda, 2017)では,同僚の領域A, Bのストレスが悪化しており,本研究の結果とは異なった.また,共分散構造分析の結果,NIOSHの職業性ストレスモデルに矛盾しないモデルが得られた.特に,上司・同僚からのサポートは,対象者の職業性ストレス悪化に直接的な影響を与えるストレス反応に,直接的・間接的な経路で影響を与えていた.以上のことから,職場における社会的支援への介入が労働者のメンタルヘルス不調を予防するために重要であると考えられる.