第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

基礎研究

[OP-2] 一般演題:基礎研究 2

2023年11月11日(土) 12:30 〜 13:30 第4会場 (会議場B5-7)

[OP-2-4] 生花とハーブを使ったフラワーアレンジメントの自律神経活動への影響

田崎 史江1, 白岩 圭悟1,2, 大類 淳矢1,2, 内藤 泰男2, 石井 良平1,2,3 (1.大阪河﨑リハビリテーション大学リハビリテーション学部, 2.大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科, 3.大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)

【序論】 園芸活動は作業療法の作業科目として古くから導入されている.その中でもフラワーアレンジメント(以下,FA)は健常中高年者や統合失調症患者,認知症高齢者の緊張緩和やストレス緩和効果というポジティブな精神機能面の効果が報告されている(Mochizuki-kawai et al., 2010 ; 杉原, 2011 ; 白井ら, 2012 ; Duら, 2022).FAに使用する植物からは様々な芳香成分が発散され,嗅神経を通じて大脳辺縁系に伝達する.
認知症は嗅覚関連領域の病理学的変化により嗅覚障害を呈する(河月, 2016).嗅覚障害はその後の認知機能低下の危険因子となるため,早期からアロマセラピーを実施し,嗅神経へアプローチし認知機能が改善したことも報告されている(Jimbo and Kimura et al., 2009).
【目的】 本研究の目的は,生花とハーブを使ったFA時の生理的変化を明らかにし,芳香成分のある植物を園芸活動に用いる有用性を検討することである.
【方法】 対象者は健常大学生(男性5名,女性5名,年齢21歳)の合計10名である.室内の机上で生花条件とハーブ条件とで吸水スポンジ(オアシス)にFAを行った.生花条件では芳香成分がほぼない花と葉の合計15本を用い,ハーブ条件では生花条件と同じ花と芳香成分の強いハーブの合計15本を用いた.ハーブ条件では,フウロソウ科テンジクアオイ属の常緑性低木であるローズゼラニウム(Rose geranium 学名: Pelargonium graveolens)を使用した.Pelargonium(ペラルゴニウム)の園芸品種であり,葉を揉むと芳香を放つニオイゼラニウムに分類されている.ローズゼラニウムの主要香気成分はβ-グアイエン(22.4%),β-シトロネロール(13.5%)であり(大久保, 2010),ストレス緩和効果があることが報告されている(ユニ・チャーム, 2017).自律神経活動の測定は携帯型心電図アンプを用いてFA中の心拍R-R間隔を測定し,Lorenz plot法(Toichi et al.,1997)により,副交感神経の指標(CVI),交感神経の指標(CSI)を算出した.統計学的解析はIBM SPSS Statistics28.0.0.0(190)を使用し,生花条件とハーブ条件間でstudent’s t検定を行った.有意水準は5%未満とした.本研究は対象者の書面による同意を得て実施しており,筆頭著者所属機関の研究倫理審査委員会の承認を受けている(承認番号:OKRU-RB0072).
【結果】 CVIは,生花条件(4.32±0.44),ハーブ条件(4.31±0.33)で2群間に有意差は認められなかった(p=0.951,d=0.02).CSIは,生花条件(1.93±0.28),ハーブ条件(2.42±0.76)で2群間に有意差が認められた(p=0.037,d=0.77). RRIは,生花条件 791.3±86.44msec,ハーブ条件 816.9±87.10msecで有意差が認められた(p=0.007,d=1.10).
【考察】 ハーブ条件では生花条件よりも交感神経活動を高めることが明らかになった.この結果はハーブの香りにより,覚醒レベルが上昇し,気分が高揚することを示唆した.または,ヒトが香りを感じた際の生理的反応として交感神経活動に出たことも考えられる.一方で,ハーブ条件のRRIは生花条件よりも有意に長く,心拍数が下がっている状態であり,リラックスしていたことを示していた.この結果はローズゼラニウムの香気成分にストレス緩和効果があるという先行研究と整合する結果を得たことになる.
作業療法活動でフラワーアレンジメント行う場合,発散香気成分の高い植物を使うことにより活動参加者の覚醒度を上げ,気分の高揚を引き出せる可能性があることが示された.今後は,植物の香気成分の違いによる自律神経活動への影響の違いをより明らかにしていくことが必要である.