第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

基礎研究

[OP-2] 一般演題:基礎研究 2

2023年11月11日(土) 12:30 〜 13:30 第4会場 (会議場B5-7)

[OP-2-5] 塗り絵における手本の有無が脳活動に及ぼす影響

白岩 圭悟1,2, 大類 淳矢1,2, 田崎 史江1, 内藤 泰男2, 石井 良平1,2 (1.大阪河﨑リハビリテーション大学, 2.大阪公立大学)

【研究の背景】
作業療法介入において,しばしば塗り絵が用いられるが,対象者にどのように導入するかによって体験の質は異なることが予測される.本研究の目的は,手本の有無による脳活動への影響を,eLORETA法(Pascual-Marqui et al., 2011)を用いて電流源と機能的連結という側面から明らかにすることである.なお,本研究は対象者に書面にて同意を得ており,帰属組織の倫理員会の承認を受けて実施された.
【方法】
健常大学生14名(男性7名)を対象として実験を行った.実験課題は朝顔の塗り絵とし,手本がない状態で5分行う条件と,手本がある状態で5分行う条件を設定し,条件中の脳波を測定した.脳波計はPolymate Pro MP6100 を使用し,国際10-20法により定められた19部位から導出し,サンプリング周波数1000Hzにて記録した.脳波データはEEGLAB 2022.0 (Delorme, 2004)を使用して処理し,ローパスフィルタ(60Hz)およびハイパスフィルタ(1.5Hz)でフィルタリングし,アーチファクトは出現した区間を目視で除去した.その後,eLORETA法を用いて,デルタ(2-4Hz),シータ(4-8Hz),アルファ(8-13Hz),ベータ1(13-20Hz),ベータ2(20-30Hz),ガンマ(30-60Hz)の6周波数帯について電流源と機能的連結を条件間で比較した.電流源については,eLORETAで対数変換した電流源密度パワーに基づき,各ボクセルの独立F-ratio-testによって評価し,機能的連結については各周波数帯の24個のROIのペア間の遅発位相同期の群間差を推定するため,eLORETAは独立標本のt検定を適用し,脳結合度のt統計量を生成した.機能的結合解析では,6つの周波数帯の24のROI間のすべての結合(276結合)をを調べた.また,多重比較の補正には,''最大統計量''(Holmes, 1996; Nichols and Holmes, 2002)に基づくeLORETAノンパラメトリック無作為化法を適用した.なお,今回は参加者数が少なく予備的研究水準であることを踏まえ,有意水準は10%未満とした.
【結果】
電流源については,手本あり条件においてシータ周波数帯域での前頭葉および帯状回付近で高い神経活動性が認められた.また,機能的連結については,手本あり条件においてシータ周波数帯域での,前頭葉と後頭葉の機能的連結が増加していることが確認された.
【考察】
今回,同じ塗り絵を行う場合でも,手本の有無によって脳波活動は異なることが明らかとなった.前頭葉および帯状回におけるシータ波は,単一の課題への強い集中の際に出現するとされるFmθ(Frontal midline theta rhythm)と考えられ,手本がある場合の方がより没頭しやすい状況が実現されていたと考えられる.また,機能的連結においても手本がある場合の方が,シータ波における前頭葉と頭頂葉の間の長距離シータ結合が増加するという結果であったが,これもFmθの活動を反映していると考えられる.いずれにせよ,同じ塗り絵を行う場合でも手本の有無による違いを神経科学的側面から明らかにすることは,効果的な作業療法実践のエビデンスに繋がるものと考えられる.