第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

基礎研究

[OP-3] 一般演題:基礎研究 3

2023年11月12日(日) 09:40 〜 10:40 第5会場 (会議場B2)

[OP-3-5] 重要な作業による動機付けへの影響

石川 真太郎1,2, 木村 大介1,3, 横井 賀津志2 (1.医療法人和光会山田病院リハビリテーション部, 2.大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科, 3.関西医療大学保健医療学部)

【背景】作業療法は,人々の健康と幸福を促進するために行われる作業に焦点を当てた実践である.作業は人が生活の中で行うことで主観的な経験と個人的な意味を伴うものと定義される(Pierce, 2001).そのため,作業は個人の主観や生活などの文脈に依存し,客観的に捉えることが難しく,個々の作業の特徴を把握するためには質的な検討が必要となる.一方,科学的な判断のためには定量的検証も重要である(廣田,2016).竹田ら(2012)は,作業への主体的参加への動機づけや意思決定を,脳内に想定される神経基盤で説明し,これら神経生理学的観点からの評価の必要性を述べている.例えば,作業への主観的参加の動機付けは,前頭眼窩野(以下,OFC)を含む報酬系ネットワークが関与するとされる(Rolls, 2002). Friston(2011)は,ネットワーク上の局在が他の局在に影響を及ぼす有効結合度の存在を述べ,一部の局在(本研究ではOFC)を測定できれば,ネットワーク全体(本研究では報酬系ネットワーク全体)を捉えることができるとしている.付け加えると,OFCは脳の表層から近赤外分光法(以下,NIRS)で測定が可能である(Kidaら, 2013).本研究の目的は, NIRSを用いてOFCを測定し,重要な作業による動機付けへの影響を検討することである.
【対象と方法】対象は,若年健常者8(男性6名,女性2名)である.作業は「料理」に設定した.料理は,楽しみとしての要素から仕事としての要素まで幅広く(吉川,2017),作業の文脈に対して個々の意味が付加されやすいと捉え,課題に設定した.作業としての料理の実施頻度,重要度は,カナダ作業遂行測定(以下,COPM)で評価した. NIRS(Spectratech社製OEG-16)の測定課題は,動作による皮膚血流の影響を考慮し,Ikiuguら(2013)の先行研究を参考に料理動画の視聴のみとした.測定課題は,料理動画視聴をターゲット課題,白紙に記された「+」の注視をコントロール課題に設定したブロックデザインを用いた.関心領域は右OFC,左OFCに設定,データ解析はベースライン補正,加算平均処理を行い,ターゲット課題における酸化ヘモグロビン(以下,Oxy-Hb)濃度変化を算出した.また,NIRSの測定後に視聴時の感想を聴収した.統計解析は,Miyataら(2022)を参考に,COPMの重要度8点以上を「重要な作業遂行群(遂行群)」,7点以下を「重要な作業非遂行群(非遂行群)」に分類し,2群間のOxy-H濃度変化をMann-Whitney U testで比較した(有意水準は5%).なお,本研究は筆頭著者所属の研究倫理審査委員会の承認を得ている.
【結果】4名が重要な作業遂行群(実施頻度:全員週に数回),4名が重要な作業非遂行群(実施頻度:週に数回1名,月に数回1名,年に数回2名)であった.Mann-Whitney U testでは,左OFCで遂行群0.038mmM・mm,非遂行群-0.015 mmM・mm,両側OFCで遂行群0.057 mmM・mm,非遂行群-0.042 mmM・mmで有意差が認められた(p<0.05).料理動画視聴後の感想は,遂行群では手順,工程が参考になる,活用したい,非遂行群は,料理が上手くできれば自分も料理を楽しく感じるかもしれないなどの感想が聴収された.
【考察】本研究では遂行群で左OFC,両側OFCのOxy-Hb濃度変化に有意差が認められた.OFCは報酬の相対的な価値を判断し,その判断をもとに動機づけを形成する(竹田ら,2012).視聴時の感想より,遂行群では動画の視聴により自身が料理をする際に役立つ価値のある情報として捉えたと解釈される.重要な作業としての認識が次の遂行に向けた動機付けにつながり,動画の視聴によるOxy-Hb増加に影響した可能性があると考えられる.