第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

基礎研究

[OQ-1] 一般演題:管理運営 1

2023年11月11日(土) 13:40 〜 14:40 第5会場 (会議場B2)

[OQ-1-4] 医療従事者の作業機能障害と離職意向,ワークエンゲージメント,および関連要因に関する横断研究

長井 健太郎1, 寺岡 睦2, 京極 真2 (1.倉敷老健, 2.吉備国際大学大学院保健科学研究科)

【背景と目的】
 労働衛生は労働者の健康障害や生産性の低下を及ぼすため,重要性が指摘されているが,医療従事者の労働衛生は不良である.作業療法の労働者支援に予防的作業療法がある.予防的作業療法では作業機能障害の評価と介入を行う.寺岡らは,作業機能障害の種類と評価を検証し,医療従事者への評価基盤を整えている.作業機能障害は健康障害や信念対立との関連性が報告されているが,離職や労働生産性との関連性は明らかでない.
労働者の離職を捉えた評価概念に離職意向,労働生産性を捉えた評価概念にワークエンゲージメント(以下:WE)がある.生産年齢人口が減少している日本社会では,労働者の離職防止や生産性向上が必要となる.そのため,予防的作業療法では労働者の作業機能障害と離職意向や,労働生産性の主要概念であるWE,その他関連要因との関連性を示すことが重要である.
 本研究の目的は,作業機能障害群と非作業機能障害群を比較し,離職意向,WE,およびその他関連要因との関連性を検証することである.本研究の意義は,予防的作業療法の視点から医療従事者の労働衛生改善の一助となることである.
【方法】
 本研究は倫理審査委員会,施設管理者,本人の承認を得たうえで実施した.開示すべきCOIはない.対象は病院や介護関連施設で勤務している医療従事者とした.研究デザインは横断研究を用いた.方法は対象者に対する自記式質問紙調査を行い,選定は有意抽出法とした.調査項目は,フェイスシート,作業機能障害,離職意向,WEとした.記述統計量の検定は,対象者を「全体」,「男女」,「作業機能障害の有無」に区分した.群間比較試験は,対象者を「全体の作業機能障害群と非作業機能障害群」,「男性の作業機能障害群と非作業機能障害」,「女性の作業機能障害群と非作業機能障害」に区分した.分析方法はWelchのt検定とBrunner-Munzel検定を使用した.
【結果】
 研究参加者は合計216名(回収率:60.3%)で,回答用紙の不備から3名が脱落となり,分析対象者は213名となった.作業機能障害群は126名(59.2%)であった.作業機能障害群は非作業機能障害群と比べ,離職意向が高く,WEが低かった.関連要因では,作業機能障害群は非作業機能障害群と比べ,気分転換の機会,余暇時間の過ごし,職場の人間関係,収入への満足度,有休消化に不満を感じていた.群間比較試験の結果では,女性の効果量が大きかった.
【考察】
 本研究の結果から,作業機能障害は離職に影響することが考えられた.本研究の対象者は先行研究と比較し,リハビリスタッフの比率が多く,作業機能障害の有病率や男女別の合計得点に先行研究と乖離が見られた.これらの乖離は,カットオフ値の算出方法や参加職種の違いが要因と考えられた.上述した項目以外の関連要因や評価尺度得点は一般的な値であり,適切な対象群であったと思われた.作業機能障害が離職に関連することは,先行研究を通して支持され,要因として器質的要因と環境的要因が推測された.器質的要因では,女性はうつや不安障害の罹患率が高く,作業機能障害者が多いと考えられた.男性は依存症の罹患率が高く,仕事に対して依存的であると思われた.環境的要因では,男女の就労に対する価値観や私生活の役割の影響が示唆された.男性作業機能障害者は,仕事に対して強迫的に従事し,仕事以外の役割活動が乏しい傾向を持つ.つまり,依存症による健康障害や生産性低下が危惧された.女性は作業機能障害の罹患率が高く,仕事以外の役割が多い傾向のため,リフレッシュ機会の確保が必要と考えられた.