第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

基礎研究

[OQ-1] 一般演題:管理運営 1

2023年11月11日(土) 13:40 〜 14:40 第5会場 (会議場B2)

[OQ-1-5] セラピストと学生のリスク認知と視線運動の特徴

林 亜遊1, 有久 勝彦2, 林 辰博1, 石附 智奈美3, 宮口 英樹3 (1.大阪医療福祉専門学校, 2.関西福祉科学大学, 3.広島大学大学院医系科学研究科)

【緒言】筆者らはリスク認知に関する評価を行えるTime Pressure-Kiken Yochi Training効果測定システム(以下,TP-KYT)を独自に作成し(有久,2019),評価法としての妥当性や熟達者の特徴,職種の特徴などについて本学会で報告してきた.セラピストや学生のリスク認知の特徴を明らかにすることでセラピストのリスク教育に貢献し,臨床現場におけるリスク軽減に寄与することができるであろう.しかし,リスク認知の記述内容と視線運動に注目した研究は散見されない.そこでセラピストと学生のTP-KYTに対するリスク認知の記述内容と視線運動の特徴について検討する.
【目的】セラピストと学生のリスク認知の記述内容と視線運動の特徴を明らかにすることを目的とする.
【方法】TP-KYT:リスク状況のイラストについて危険と感じた内容について10秒の時間制約下でできるだけ多くのリスクをチェック方式によって抽出してもらい,その後その内容について記述を求めた.記述内容はリストに沿って得点化することができる.TP-KYTは5つのリスク場面の評価を求めるが,今回は入浴場面を取り上げた.対象:セラピスト6名(OT2名・PT4名,平均年齢33.3歳,平均経験年数12年).学生7名(作業療法学科の大学4年生,男性3名・女性4名,平均年齢21.3歳).分析方法:視線運動はアイトラッカーで分析した.対象者にアイトラッカー(Tobii製;Tobii Pro Glasses2)を装着してもらいTP-KYTを実施した.TP-KYTの入浴場面の状況図における得点分布を関心領域(「バスボード」,「シャワーチェア」,「靴下」,「セラピスト」)として設定し,関心領域に対する注視回数を算出した.リスク認知はリスク場面に対する記述内容をテキストマイニングの手法で分析した.TP-KYTで用いた入浴場面に関する記述内容を分析対象とした.記述内容はテキストマイニングの解析ソフトであるKH Coder-3を用いて分析した.同様の意味を持つ単語をまとめ合わせるコーディングルールを関心領域から作成し,コーディングルールの出現回数を算出した.統計処理はEZR Ver. 1.61を用いて注視回数とコーディングルールの出現回数についてセラピストと学生に差があるかMann–Whitney U検定で分析を行った.尚,有意水準は5%以下とした.倫理的配慮:対象には研究目的と方法など説明し,自由意志による参加を求めた.本研究は共同演者所属機関の倫理審査会の許可を得て実施した.
【結果】次に注視回数とコーディングの出現回数の平均値を示す.尚,カッコ内の数字はセラピスト,学生,p値の順である.注視回数は,「バスボード」(1.7,1.1,0.20),「シャワーチェア」(1.8,1.6,0.76),「靴下」(1,1,0.82),「セラピスト」(2.7,0.9,0.04)であり,「セラピスト」に有意差が見られた.コーディングルールの出現回数は,「バスボード」(0.5,0,0.05),「シャワーチェア」(0.5,0,0.05),「靴下」(1,0.3,0.01),「セラピスト」(0.7,0.3,0.21)であり,「バスボード」,「シャワーチェア」,「セラピスト」に有意差が見られた.
【考察】セラピストのリスク認知の特徴は重要な注視領域に注視され,その言語化がされていることが分かった.学生は「バスボード」,「シャワーチェア」,「靴下」の注視はできていたが,その言語化ができていなかった.学生のリスク認知を高めるためには,リスク認知上重要な注視領域に注視させ,その言語化を促すことが必要であると言える.その際,特に言語化の促しに留意することが重要であると言える.