第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

基礎研究

[OR-1] 一般演題:教育 1

2023年11月10日(金) 15:40 〜 16:50 第7会場 (会議場B3-4)

[OR-1-5] 対話-共同創造プログラムの作業療法学科学生と精神障害者に対するスティグマ低減効果

中西 英一1,4,5, 玉地 雅浩3, 橋本 健志2 (1.佛教大学作業療法学科, 2.神戸大学大学院保健学研究科, 3.早稲田大学ヒューマンパフォーマンス研究所, 4.(前)藍野大学作業療法学科, 5.神戸大学大学院博士後期課程研究生)

【序論】精神障害者に対するスティグマは,精神障害者に対する偏見・差別を表す.スティグマは一般の人だけでなく,医療従事者や学生にも存在する.またスティグマを自分の中に内在化することをセルフスティグマといい,精神障害者は自尊心の喪失を経験する.スティグマやセルフスティグマは精神障害者の日々の生活を困難にする要因であることから,それらを低減することは解決すべき課題である.スティグマを効果的に低減するためには,精神障害者のリカバリーを基本理念として精神障害者との接触体験や共同作業などを含む新しいプログラムが必要であるとされる(Knaak, 2014).
【目的】本研究はスティグマ低減のための対話を伴う共同創造プログラム(Co-Production with Dialogue Program for Reducing Stigma: CPD-RS)を開発し,学生の精神障害者に対するスティグマと精神障害者のセルフスティグマ低減効果を検証することを目的とした.
【方法】研究デザインは対照群のない前後比較研究である.参加者は作業療法学科の学生28名と地域在住の精神障害者20名.各グループは学生2-3人と精神障害者2人で構成し10グループに分けた.CPD-RSは学生と精神障害者が生活をテーマに対話し共創してポスターを作成し,グループ全体で発表したあとグループで振り返りを行うという構成である.プログラムを通じて尊厳のある個人として相互理解が促され,精神障害者に対する学生のスティグマや精神障害者のセルフスティグマが低減すると考えた.日本語版Linkスティグマ尺度(DDS)(下津他, 2006)を用いて学生のスティグマと精神障害者のセルフスティグマを評価した.DDSは合計点が多いとスティグマが高いことを示す.またCPD-RSでの主観的体験を評価するために介入後にアンケートを実施した.アンケートは6つの項目(プログラムの楽しさ,自己表現,生活の対処,自分自身の他者への影響,他者から自分自身への影響,プログラムについて人に話す)をリッカートスケール(5段階)に記入し,加えて自由記述回答を求めた.
この研究はヘルシンキ宣言に従い,藍野大学研究倫理委員会の承認を得た(承認番号2018-21).介入は参加者から書面による同意取得後に実施した.参加希望した人には,参加は任意であり,いつでも不参加にできることを伝えた.
【結果】学生のDDSスコアの平均は介入後に有意に低減し,介入終了1ヶ月後も低減が維持された.精神障害者のDDSスコアは介入前後で有意な変化はなかった.介入後アンケートではリッカートスケールの合計点の中央値が学生,精神障害者ともに3.5以上であった.自由回答では学生・精神障害者ともに「生活の悩みを話せて同じような悩みを抱えていると感じた.」と対話実現と生活問題の共通性について述べた.
【考察】CPD-RSは学生のスティグマを低減させることが示唆された.学生のスティグマの低減は,座学による知識獲得では不十分であり,リカバリー志向で精神障害者との相互協力を経験することによってもたらされると思われた.また実施後のアンケートからは,CPD-RSは学生と精神障害者に生活の問題解決が同じという理解をもたらし,参加者が安全で楽しい体験となったことが示唆された.一方,精神障害者のDDSスコアに変化がなかったことから,セルフスティグマ改善のためには,精神障害者へのポジティブフィードバックを強化するプログラム構成が必要であると思われた.以上からCPD-RSは,学生のスティグマを低減させ,学生と精神障害者が相互に尊重した理解を育むことに有用であることが示唆された.本研究の一部は, Int. J. Environ. Res. Public Health 2022, 19(21), 14333にて報告した.