第57回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

脳血管疾患等

[PA-1] ポスター:脳血管疾患等 1

Fri. Nov 10, 2023 11:00 AM - 12:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-1-5] ADOCを用いた語りから実現された目標共有

庄子 雅, 中村 美歌 (医療法人 三星会 茨城リハビリテーション病院)

【はじめに】効果的なリハビリテーションを行うために,多職種連携と適切な目標設定が推奨されている.今回,作業選択意志決定ソフト(以下,ADOC)を用いて目標の共有を行い,独居生活の再開に至った事例について報告する.尚,本報告に際して本人に同意を得ている.
【事例紹介】A氏,60代女性,X年Y月に前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血を発症,Y+1月に水頭症にて脳室腹腔短絡術を施行,Y+2月に当院回復期リハ病棟に入院.病前は独居生活をしており,派遣社員として働いていた.キーパーソンは次男だが,家族関係は希薄だった.次男は,歩行でADLが自立し,次男宅付近での独居再開を希望していた.
【初回評価】四肢運動麻痺(BRS右Ⅳ-Ⅲ-Ⅲ,左Ⅲ-Ⅲ-Ⅲ),全身の耐久性や筋力低下,肩関節屈曲・外転・外旋時に可動域制限や疼痛あり.高次脳機能障害として軽度意識障害,注意障害,記憶障害,処理速度低下を認め,HDS-Rは7点であった. ADL全般に介助を要し,コミュニケーションにおいてはスピーチカニューレを使用し,口頭にて可能.FIM27点(運動16点,認知11点).
【経過】前期(入院~1ヶ月半):座位や立位の安定性を向上させつつ,排泄や整容練習を実施した.上肢機能はSTEF右65点/左33点,握力右8.8㎏/左5.8㎏であり,ADLの中で両上肢の使用が得られるよう上肢機能訓練を行った.介助量軽減に伴い歩行にて排泄や整容練習を実施すると,両手を使おうとする様子がみられた.更に,意識障害の改善や歩行能力の向上に伴い,病棟内の移動が独歩にて見守りとなった.この時期にA氏と今後の生活について話し合う機会を設けたが,具体的な希望が聞かれず目標共有が不十分であった.
中期(1ヶ月半~4ヶ月): A氏と目標共有を図るためADOCを実施し,満足度を5段階で評価した.すると,手と腕の使用(3点),屋外の移動(2点),友人との交流(2点)であった.A氏は「着替えやお風呂の時に手伝ってもらっている」「手が使えないと家事も行えない」と活動を行うための上肢機能の向上を望んでいた.また,「友人と外出したり,料理を振舞いたい」等,友人との交流を再開したいとの語りがあった.そのため,独居生活や友人との交流に向けた活動の再獲得を目標とし, A氏や多職種と共有した. 上肢機能訓練では,肩甲帯の安定性向上や関節可動域の改善,手指分離運動を実施した.また更衣においては,肩関節可動域制限から動作方法を検討し定着を図った.すると入浴以外のADLが独歩にて自立した. 家事練習を実施すると,動作は全般的に見守りで可能であったが,主に調理では鍋を運搬する際に上肢の過緊張や,菜箸操作での拙劣さなどの問題が認められた.そのため,各工程に必要な上肢機能訓練を実施した.調理練習で上肢機能の改善をフィードバックし,事例の努力を認める関わりをした.すると,STEF右90点/左86点,握力右14.3㎏/左11.1㎏となった.
後期(4ヶ月~5か月):調理では鍋の運搬時に上肢の過緊張が減り,菜箸操作が安定した.また理学療法士と協業して買い物や電車移動を想定した物持ちや不整地歩行,バランス訓練を実施した.ADOCにて抽出された項目の満足度に変化は認めなかったが,「一人暮らしできると思う」「友人とお茶飲みから始めよう」との発言があった.
【結果】BRS左右ともにⅤ-Ⅴ-Ⅴ,STEF右93点/左92点,握力右15.6㎏/左12.4㎏,HDS-R30点となった.FIM121点(運動88点,認知33点).また,ADLや家事活動が自立となり,次男宅付近のマンションで独居を再開した.
【考察】本事例では,ADOCを用いて語りを引き出したことにより,退院後の生活についてのイメージや目標の共有に至った.また,目標を共有することで動機づけとなり,成果の向上に繋がることで,効果的なリハビリテーションを行うことが可能となったと考えられる.