第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-10] ポスター:脳血管疾患等 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-10-11] 回復期の脳卒中患者における主観的幸福感の変化とリハビリテーションがおよぼす効果との関係について

吉田 康太郎1,2, 日高 雄磨1, 大勝 秀樹1, 窪田 正大2 (1.医療法人三州会 大勝病院, 2.鹿児島大学大学院 保健学研究科)

【はじめに】回復期リハビリテーション(リハ)病棟では,集中的にリハが実施され,身体機能などの改善が見込める.しかし,実際の臨床では,患者の身体機能などが改善しているにもかかわらず,退院時には患者の不安な様子が見られることは少なくない.このことは,医療における客観的な効果判定やリハ治療満足度では測ることのできない,患者の精神・心理的側面が存在していると考えられる.そこで本研究の目的は,回復期の脳卒中患者において,主観的幸福感の変化とリハビリテーションが及ぼす効果(心身機能・活動・リハ治療満足度)との関係性について調査を行うことである.
【対象】対象は,2022年3月から2022年11月までの期間に医療法人三州会大勝病院の回復期リハ病棟へ入退院した脳卒中患者49名であった.その中で,認知症の診断がなく,かつ意識清明で,方法に示す検査の実施が可能であった8名(男性5名,女性3名,平均年齢66.9歳)を対象とした.なお,本研究は大勝病院の倫理審査で承認を得られた後に,すべての対象に対して本研究の内容を文書で説明し,同意を得て実施した(倫委第2021/3号).
【方法】対象の基本情報として性別,年齢,脳卒中の種類,麻痺側,MMSE,GDS15,在院日数について診療録より収集した.主観的幸福感の評価は,主観的幸福感尺度(SWBS)を用いた.また,心身機能の評価は,SIAS,活動の評価は,M-FIMを実施した.さらに,リハに対する満足感の評価は,顧客満足度尺度(CSSNS)を用いた.そして,入院時と退院時に評価を行った心身機能・活動の改善は,有意差検定と効果量を用いて分析した.また,主観的幸福感の変化量と基本属性,CSSNS,心身機能・活動の変化量との相関関係の分析を行った.
【結果】1.対象の基本属性:対象は,平均在院日数は121.9日で,GDS15が5点以上でうつ傾向とみなされるのは8名中5名(62.5%)であった.2.リハ介入前後のSIASとM-FIMの比較:SIASとM-FIMともに退院時に有意な改善を認めた(SIAS:p=0.03,M-FIM:p<0.01).また,SIASの効果量(r)は,大(0.778),M-FIMの効果量(r)は,大(0.891)であった.3.SWBS変化量と基本属性,CSSNS,心身機能・活動の変化量との相関関係:SWBS変化量は,心身機能・活動と有意な相関関係を示さなかった.一方,CSSNS下位項目の「有能さの欲求の充足」と有意な相関関係を認めた(rs=0.73,p=0.039).
【考察】今回,回復期脳卒中患者において,主観的幸福感の変化とリハビリテーションがおよぼす効果(心身機能・活動・リハ治療満足度)との関係性について調査を行った.その結果,SWBSの変化量は,CSSNSの下位項目の「有能さの欲求の充足」と相関関係にあることがわかった.このことは,基本的心理欲求の充足とウェルビーイングとが関連あるとする先行研究の結果と一致していた.一方,SWBS変化量は,心身機能・活動の変化との相関を認めなかった.これは,長期的なウェルビーイングから得られる幸福感が,回復期の短期間の院内生活では,退院後の生活状況まで予測することが困難であることが影響したと考える.
【結論】回復期脳卒中患者において,リハにより基本的心理欲求が充足されれば,患者本人の主観的幸福感も向上する可能性が示唆された.また,リハ介入前後で心身機能・活動の改善は認められたが,その改善度のみでは主観的幸福感に影響を及ぼしにくいことが示唆された.