第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-10] ポスター:脳血管疾患等 10

Sat. Nov 11, 2023 2:10 PM - 3:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-10-12] 麻痺手での洗髪動作に損傷半球を考慮した運動観察が及ぼす影響:症例報告

舞田 大輔, 星原 剛史, 田中 慎一郎 (医療法人田中会 武蔵ヶ丘病院)

【はじめに】脳卒中後の上肢リハビリテーションには,Constraint-induced movement therapy(CI療法)や運動イメージを用いた訓練が推奨されており(脳卒中ガイドライン2021),後者の1つに目的動作を観察し運動シミュレーションを促す運動観察療法(Action observation therapy:AOT)がある.Fuchigamiら(2019)は,脳卒中片麻痺患者の非麻痺側下肢運動を対象に,自己の運動観察(Self-observation:SO)と他者の運動観察(Other-observation:OO)が及ぼす影響について調査したところ,右半球損傷者はOOの方が運動イメージの想起時間や鮮明度,実動作への影響が大きく,左半球損傷者はSOの方が運動イメージの想起時間への影響が大きかったことを報告している.この結果から,脳の損傷側によって観察内容を考慮する必要性が示唆されたが,上肢麻痺やセルフケアを対象とした実践報告は少ない.
 今回,我々は脳卒中既往者にCI療法と損傷半球を考慮したAOTを試みたところ,目標だった「麻痺手での洗髪動作」を達成したので報告する.なお,本報告はヘルシンキ宣言に則り,本人の同意を得ている.
【症例】左半球損傷後1年以上経過した70歳代右利き女性である.当院通所リハビリテーション(通所リハ)を週3回利用し,目標は「麻痺手での洗髪動作」だった.しかし,麻痺手(右)は非麻痺手と比べ洗える範囲は半分以下で,Functional Independence Measure (FIM)に準じた評価は3/7点だった.一方,運動麻痺はFugal-Meyer Assessment(FMA)で60/66点,感覚はFMAの感覚項目で触覚,関節覚ともに正常だった.ただし,母指探し試験は2度で深部感覚の低下があった.上肢の使用は,Motor Activity Log(MAL)でAmount of Use(AOU)が3/5点,Quality of Movement(QOM)が2.3/5点だった.上肢の運動イメージ能力は,Kinesthetic and Visual Imagery Questionnaire (KVIQ)で視覚イメージ(VI),筋感覚イメージ(KI)ともに5/5点(はっきりイメージできる)だったが,同評価に準じた洗髪動作のイメージはどちらも1点(イメージできない)だった.
【作業療法介入と結果】介入経過から大きく2つの時期に分かれた.
 A期(40日間):通所リハ利用時に,洗髪動作に必要な上肢や手指操作の要素を含んだ課題指向型練習を90分実施した.その際,麻痺手の深部感覚低下を補うために非麻痺手で補助する方法を指導した.また,自宅でも麻痺手の使用を促すためにTransfer packageを行った.結果,FMAに変化はなかったが,MALはAOUが4.3点,QOMが3.8点に改善した.一方,通所リハ入浴時に他者の洗髪を観察する機会もあったが,洗髪動作のイメージはVI,KIどちらも1点のままで,実動作も依然として介助を必要とした.本人は「まだ,頭の上や後ろは麻痺手で上手く洗えない」,「見えないから余計に難しい」と語っていた.
 B期(44日間):A期終了翌日からCI療法に加えAOTを追加した.症例は左半球損傷だったことから,SOの方が洗髪動作のシミュレーションを促せると考え,本人が麻痺手で行う洗髪動作と,両手で行う洗髪動作の2種類の映像を作成した.方法は,通所リハの入浴前に両映像を2回ずつ観察し,実際の洗髪動作を実施した.また,SO中は本人と療法士が洗髪時の麻痺手の使い方や改善点について話し合った.結果,洗髪動作のイメージは,VIが5点,KIが3点となり,実動作でも麻痺手で後頭頂部を洗えるようになった(FIMで6点).本人は「自分の映像だから麻痺手の動きや改善点が分かりやすい」と語っていた.
【考察】本結果より,脳卒中後の洗髪動作を目的にAOTを実践する際も,損傷側によって観察内容を考慮する必要性が示唆された.