第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-10] ポスター:脳血管疾患等 10

Sat. Nov 11, 2023 2:10 PM - 3:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-10-17] 回復期脳卒中患者の麻痺側上肢に対する主観的有用度における関連要因の検証

松岡 耕史1, 渡邊 愛記2, 川口 敬之3 (1.多摩丘陵病院リハビリテーション技術部 作業療法科, 2.北里大学作業療法学専攻, 3.国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)

【序論】
脳卒中後の上肢リハビリテーションにおいて,機能改善のみならず,生活上で麻痺側上肢を使用できるようにすることが課題となっている(Morris, 2006).麻痺側上肢を生活上で使用する頻度に影響を与える要因として,Fugl-Meyer Assessment(FMA)や麻痺の左右,深部感覚障害などが関係している(Fleming, 2014).また,最近の研究では麻痺側上肢機能が比較的改善している脳卒中患者においても麻痺側上肢を生活上で使用できていない理由として,麻痺側上肢に対する心理的要因が関与していることが示されており(北村,2019),発症から数年経過した生活期においては.麻痺側上肢に対する有用度と関連があると言われている(能村,2013).しかし,麻痺側上肢に対する心理面を評価する尺度は一般的に使われておらず,回復期脳卒中患者に対しても心理的評価はあまり行われていない.本研究の目的は,回復期脳卒中患者に対して麻痺側上肢が役に立つと感じる主観的な「有用度」をVisual Analogue Scale(VAS)にて評価し,有用度と麻痺側上肢との関連性を検証することである.
【方法】
対象は回復期リハビリテーション病棟に入院中の上肢片麻痺を呈した脳卒中患者とした.有用度評価は,「麻痺した手について,どの程度役に立っていると感じるか」という質問に対して,0(全く役に立っていない)~100(とても役に立っている)までのVASで対象者自身が評価して回答した.対象者に対してこの有用度評価に加え,FMA,Motor Activity Log-Amount of Use(MAL-AOU),Functional Independence Measure(FIM)を実施した.有用度と麻痺側上肢との関連性における解析は,有用度評価を目的変数,FMAとMAL-AOU,FIMを説明変数とし,ステップワイズ法による重回帰分析を行った.解析にはIBM SPSS Statistics 26.0 for Windows(日本IBM社製)を使用し,有意水準を5%未満とした.本研究は当院倫理委員会承認後,対象者より紙面にて同意を得て実施した(多丘倫20-4).
【結果】
対象は脳卒中患者27例,男性18例,入院時年齢71.6±13.0歳,発症後期間62.4±42.8日,脳出血17例,脳梗塞10例,右片麻痺10例,有用度評価27.8±26.2,FMA 34.4±19.9点,MAL-AOU 1.1±1.5点であった.重回帰分析の結果,MAL-AOU(p=0.001)とFMA(p=0.047)に有意な関連が認められ,標準偏回帰係数βはMAL-AOU:0.59,FMA:0.31であった.得られた変数のVariance Inflation Factor(VIF)は10未満であり多重共線性は存在しなかった.
【考察】
回復期脳卒中患者における麻痺側上肢に対する主観的有用度と麻痺側上肢機能との関連性を検証した.その結果,有用度と関連がある因子としてMAL-AOUとFMAが抽出され,特にMAL-AOUとの強い関連が示され麻痺側上肢の主観的な使用頻度が有用度に影響を与えていることが明らかになった.FMAは麻痺側上肢の客観的な機能評価であるのに対して,MAL-AOUは有用度と同様に主観的評価であり対象者の心理面を反映しているため,より強く関連していると考えられた.本研究より,今回用いた尺度に反映される心理的要因である麻痺側上肢に対する有用度は,回復期脳卒中患者の麻痺側上肢の使用頻度との関連性が示され,使用頻度の改善に対して有用度を考慮することの必要性が示唆された.